SF
シノはきれいの中を猛スピードで駆け抜けるだけの生き方をしたかった。その先に何があるのかは知らない。(p.264) これは主人公・シノのモノローグです。倫理的に危うい配信活動を繰り返し、急速に配信者としてのステップを駆け上がっていくシノ。その刹那…
オキシタケヒコ『筺底のエルピス』、第2章「夏の終わり」第3章「廃棄未来」について、読後の余韻が残っているうちに、いくつか感想を書いておこうと思います。 ネタバレには特に配慮しませんので、ご注意ください。 [まとめ買い] 筺底のエルピス 作者:オキ…
絶対好きなタイプの作品なのに、なかなか読むきっかけがなくて後回しにしている。読書好きならば、そんなシリーズ作品が一つや二つ思い当たるという方も多いのではないでしょうか。私の場合、小川一水『天冥の標』や、瘤久保慎司『錆喰いビスコ』がそれにあ…
マルドゥックシティという巨大都市を舞台に、能力者たちの闘争を描く『マルドゥック・アノニマス』。5巻ではバロットが、かつての自分を思わせる少女アビゲイルと向き合います。 マルドゥック・アノニマス 5 (ハヤカワ文庫JA) 作者:冲方 丁 発売日: 2020/05…
コロナ禍の影響で当初の予定より一ヶ月遅れの2020年5月末に発売された「SFマガジン」の2020年6月号は、英語圏SF受賞作特集。ネビュラ賞などの著名な賞を受賞した短編が、合わせて4編掲載されています。 SFマガジン 2020年 06 月号 発売日: 2020/05/25 メディ…
野﨑まどの新作のテーマは「仕事とは何か」。ありふれた問いのようでありながら、その実答えようと思うと言葉に詰まってしまうテーマですが、本作では心理学者の主人公と人工知能とのカウンセリングを通して、その問いの答えを導きます。 タイタン 作者:野崎…
2019年の5月に早川書房のnoteにアップされたところ、20万を超えるPVを獲得し同noteの歴代アクセス数1位となった「ピュア」。 愛する人ともっと話したい、だけどそれよりも、交わった果てに食べてしまいたい。そんな究極の葛藤を描いた表題作のほか、「性」と…
<不可視理論>という正体不明のウイルスによって交通網やネットが攻撃され、世界がバラバラに分断された世界で、恋人に会うために旅を始める数学SFです。 不可視都市 (星海社FICTIONS) 作者:高島 雄哉 発売日: 2020/03/15 メディア: 単行本(ソフトカバー)…
2016年に『横浜駅SF』でデビューした注目のSF作家、柞刈湯葉。カクヨムではいくつも短編を発表しているようですが、書籍としては初の短編集が『人間たちの話』となります。 人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA) 作者:柞刈 湯葉 発売日: 2020/03/18 メディア: 文庫…
ハヤカワ文庫発の百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』にてトリを飾った、小川一水の「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」。辺境宇宙で女同士のでこぼこコンビが、因習や偏見と戦いながら魚っぽいものを捕まえるという、漁業百合SFが長編版と…
第26回電撃小説大賞では、アニラジをテーマにした『声優ラジオのウラオモテ』が大賞を受賞しましたが、同じく銀賞を受賞した『こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』においても、重要なキーアイテムとしてラジオが登場します。 唯…
作家としては『なめらかな世界と、その敵』でベストSF2019国内編1位を獲得し、アンソロジストとしては先日『2010年代SF傑作選』全2巻が発売されたばかりの伴名練の最新作「白萩家食卓眺望」が、SFマガジン2020年4月号に掲載されています。 SFマガジン2020年0…
科学の発展によって不老不死を得た代わりに生殖能力を失った人類と、人間によって造られた”ウォーカロン"(いわゆるアンドロイド)、そして人工知能が共存する近未来世界を描いたWシリーズ。その続編となるWWシリーズ第三作が本書『キャサリンはどのように子供…
大森望と伴名練が選者となって編まれた、2010年代に発表されたSF短編小説の傑作選。 真っ赤な表紙が目を引く第2巻は、10年代にデビューした作家の短編が集められています。 中性的なキャラクターを用いた表紙の素晴らしさは、『傑作選1』の感想で述べた通り…
2010年代のSF小説を総括するこのアンソロジー。収録作品のチョイスは、翻訳家にしてアンソロジスト、言わずと知れた大森望と、早川書房が主催するベストSF2019で国内編の1位を獲得した『なめらかな世界と、その敵』の著者である伴名練が務めています。 伴名…
少女・ 先日ハヤカワ文庫JAから『2010年代SF傑作選Ⅰ,Ⅱ』が発売されました。2010年代のSFを総括するアンソロジーであると同時に、2020年つまりは20年代最初のSFアンソロジーでもあります。 では逆に2019年ラスト、すなわち10年代の最後を締めくくったSFアンソ…
第162回直木賞の候補作にもなった『嘘と正典』。受賞すればSF作品としては二作目の受賞になったとのこと。残念でした。 しかし、候補作となったことで注目度が上がったのも事実。SF作品と言っても表題作の「嘘と正典」以外はそれほどSF然としていないので、…
「まだ読んでなかったんですか?」 「……はい」 「読んでないのに別の記事で『これぞ原々流』みたいなこと言ってたんですか?」 「…………はい」 最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA) 作者:草野 原々 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/01/24 メデ…
大森望責任編集のもと、新作・書下ろしのSF短編を集めたアンソロジー。第一期十冊、第二期二冊を経て2019年から始まった第三期『NOVA』の第二号となります。 まえがきを読むと「隔月刊の〈SFマガジン〉に続く文庫版のSF専門誌――になれるかどうかは定かじゃあ…
miniwiz07.hatenablog.com 上巻の記事でも少し触れましたが、この『ゲームの王国』の上巻を読んでから初めて下巻のあらすじを読んだとき衝撃を受けました。上巻のラストから、ムイタックとソリヤが和解してポル・ポトを倒す、みたいな展開をぼんやりと予想し…
東北芸術工科大学芸術学部文芸学科から刊行されている雑誌「文芸ラジオ」の5号に掲載された草野原々の書下ろし短編「札幌 vs. 那覇」は、次のような書き出しで始まります。 札幌が仙台を完膚なきまでに破壊!*1 もうこの段階で訳が分からない。「横浜駅が増…
一つの物語が上下巻の分冊になる場合、当然下巻の裏表紙には下巻のあらすじが書かれるわけですが、そこに上巻のネタバレが含まれることは避けられません。なので上下巻の本を買う際、私はなるべく下巻のあらすじを読まないようにしているのですが、この『ゲ…
新年、あけましておめでとうございます。 このブログが週3回の更新となって2か月ですが、来年もこのペースで続けていけるよう頑張ります。 さて、新年一発目は宮澤伊織の短編を紹介したいと思います。 「神々の歩法」は第六回創元SF短編賞の受賞作品で、『年…
大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA) 作者:草野原々 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/12/19 メディア: Kindle版 〈あらすじ〉 前作『大進化どうぶつデスゲーム』で辛くもネコ宇宙の侵食を退けた星智慧女学院3年A組の生徒たち。それから三ヵ…
このアンソロジーに宮澤伊織も参加しているということで、たしか発売してすぐ買ったと思うのですが、つい積んでしまいました。気付けば1年も経ってしまい、第二弾が出るということで、ようやく読むことに。 頭から順番に読んでいって、さて宮澤伊織だと思っ…
4巻の発売にあわせて特別PVが公開されたり、書店で大々的にフェアが組まれたりと、いま勢いのある『裏世界ピクニック』。この4巻では空魚と鳥子の関係に大きな進展がありました。ネタバレありで感想をつらつらと書きましたので、シリーズを未読という方…
私が中学校の図書館で『デルフィニア戦記』に心を奪われてからはや十年。茅田砂胡の新刊が年三冊ペースで定期的に出ていたころは、発売日に新刊を買っていたのですが、最近は刊行時期もまちまちで発売に気づけないことも多く、本書を手に取るのも半月ほど遅…
今週12月19日に発売予定の草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』。その前作にあたる『大進化どうぶつデスゲーム』を発売時に買ったきり積んでしまっていたので、新刊の発売を機に読むことにしました。とはいえ、担当編集によると「前作読んでなくてもいい第2…
様々なVRMMOゲームを舞台に主人公・キリトや仲間たちの活躍を描く人気シリーズSAO(ソードアート・オンライン)の最新作。今回の舞台となる≪ユナイタル・リング≫は、≪ザ・シード≫という共通の規格でつくられた数々のVRMMOゲームが融合して誕生し…
東京創元社の文庫創刊60周年を記念して制作された『宙を数える』及び『時を歩く』は、創元SF短編賞受賞者によるテーマ別の書き下ろしアンソロジーとなっている。今回読んだ『宙を数える』は宇宙SFがテーマとなっており、私は宮澤伊織を目当てに手に取っ…