札幌が日本列島を蹂躙する⁉――草野原々「札幌 vs. 那覇」
東北芸術工科大学芸術学部文芸学科から刊行されている雑誌「文芸ラジオ」の5号に掲載された草野原々の書下ろし短編「札幌 vs. 那覇」は、次のような書き出しで始まります。
札幌が仙台を完膚なきまでに破壊!*1
もうこの段階で訳が分からない。「横浜駅が増殖して本州すべてが横浜駅になった」くらい訳が分からない。いったい何が起こったのでしょうか。
本作は基本的に旅行記の体裁で進行します。語り手は札幌に在住の作家で、2018年の年末には『大進化どうぶつデスゲーム』という作品の第一稿を仕上げ、翌2019年の1月末に『これは学園ラブコメです。』という作品の締め切りが控えていますが、お正月明けから訳あって沖縄旅行へと出かけます。
そうなのです。この作品の語り手は草野原々本人なのです。沖縄旅行については、日程や観光した場所、食べたもの、泊まったホテルなどが詳細に書かれており、恐らくは本当にこの行程で沖縄旅行に行っていたんだろうなということが伺えます。
ホテルに持ち込んだアマゾンスティックで『となりの吸血鬼さん』を最終話まで見ただとか、やたら詳細に書かれています。前述のように当時原稿が進行中であった『どうデス』と『これ学』についても、多少触れられています。
もちろん、ただの旅行記であれば札幌が急に仙台を襲うことなどあり得ません。やたら解像度の高い旅行記の合間合間に、札幌住民だけが罹る奇病やら、ガジュマル・ネットワークやら、進撃の札幌やらの奇想が挿入されていきます。さて、いったい何が起きているのでしょうか。
本作が掲載されている「文芸ラジオ」5号は特集が「異世界のつくり方」となっており、『アステリズムに花束を』で草野原々と共演した、「四十九日恋文」『ウタカイ 異能短歌遊戯』の森田季節のエッセイや、「ピロウトーク」『アリスと蔵六』の今井哲也のインタビューなども掲載されており、オススメです。