汗牛未充棟

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続刊発売直前!生物種の進化を賭けた冒険ハード百合SF!――草野原々『大進化どうぶつデスゲーム』

 今週12月19日に発売予定の草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』。その前作にあたる『大進化どうぶつデスゲーム』を発売時に買ったきり積んでしまっていたので、新刊の発売を機に読むことにしました。とはいえ、担当編集によると「前作読んでなくてもいい第2作」*1になっているとのこと。いったい何が起きたんだ……。

 

大進化どうぶつデスゲーム (ハヤカワ文庫JA)

大進化どうぶつデスゲーム (ハヤカワ文庫JA)

 

 

〈あらすじ〉

 星智慧女学園三年A組の生徒たちは、授業中突然ピンク色の光に飲み込まれる。気付くと教室の外の街並みは薄暗い森に一変しており、更には二足歩行のネコがサルを捕食していた。

 混乱する彼女たちの前に現れたシンギュラリティAIのシグナ・リアによると、ヒトが知性をもつヒト宇宙が、ネコが知性を持つネコ宇宙から侵略されていて、ヒト宇宙を救う戦士としてA組の生徒たちが選ばれたというのである。果たして彼女たちは宇宙の歴史をネコから取り戻すことができるのか。


・ヒト宇宙vs.ネコ宇宙

 過去のインタビューによると、この作品のジャンルは「冒険ハード百合SF」となるらしい*2。ヒトが進化して知性を持ったヒト宇宙が、ネコが進化して知性を持ったネコ宇宙に侵略されたため、遺伝情報を利用して過去にタイムスリップして、知性ネコの祖先を絶滅させるという種族間のデスゲーム。草野原々らしい壮大さではないでしょうか。

 正直ナビゲート役であるシンギュラリティAIシグナ・リアの説明は、彼女の性格が悪いということ以外あまり理解してないのですが、それでも読み進めていける面白さがありました。

 

・十八人の百合群像劇

 本作は三年A組十八人の群像劇となっており、キャラクター同士の関係性も様々に発生しています。

 個人的には高秀幾久世と天沢千宙の組み合わせが気になりました。幾久世は典型的な邪気眼中二病ですが、真正のものではなく、「無害な変人」というポジションを得るためであり、内心ではよく周囲を観察しています。一方保健室登校の天沢千宙は自分の人生を無価値と思いながら、幾久世に心酔し、彼女の存在を唯一の拠り所にしています。現状では負担が大きく、千宙の依存先を増やしたい幾久世と、幾久世とずっと一緒にいたい、それが叶わないならばいっそのこと一緒に死にたいとまで考える千宙のすれ違いが、どうなっていくのか引きつけられます。

 他にも他人を寄せ付けない不良少女と世話焼きの生徒会長など気になる関係性は多いですが、多くの関係性が提示された一方で、その関係性に物語として決着がついたものはほとんどなく、次巻以降に期待という感じでした。

 そもそもシリーズ化を目指して書かれているようなので、仕方のないことかもしれませんが、肝心の次巻について担当編集氏から「シリーズ物に必要な設定、伏線をすべて推進剤としてこの1冊で燃やし尽くした」*3と述べているので、いったいどんなものが世に放たれるのか期待と不安でドキドキです。

 

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)