汗牛未充棟

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冲方丁『SGU 警視庁特別銃装班』――銃には銃を、凶悪化する銃犯罪にスペシャリストたちが立ち向かう!

 昨年12月の『骨灰』続き先月末の『マイ・リトル・ヒーロー』と、雑誌連載された作品の単行本化が続いた冲方丁だが、その最中に突如として刊行が告知されたのが今回紹介する『SGU 警視庁特別銃装班』

 しかもサプライズはそれだけでなく、本作を原作としたドラマが今春にも配信されるという。さらに、版元が『本好きの下剋上』などのライトノベル作品で有名なTOブックスだったりと、気になる点が満載な本作。いったいどのような物語になっているのだろうか。

 

 

 歴史小説からSF、ファンタジーなどあらゆるジャンルで執筆する冲方丁。その中でも『マルドゥック・スクランブル』の「委任事件担当官」や、『剣樹抄』の「捨人衆」、さらには一部シリーズ構成を務めるアニメシリーズ『PSYCHO-PASS』の「厚生省公安局」など、治安組織の活躍を描くのは十八番中の十八番といえるだろう。

 本作では現代日本を舞台に、警視庁内に特設された特別銃装班(SGU)の活躍を描く。

 

 現代日本といっても、自動小銃やライフルなどの強力な銃器が裏社会に広く流通するようになったパラレルワールドの日本が舞台になっている。

 流通した銃器によって事件は凶悪化し、銀行などを相手取った武装強盗が頻発するようになってしまう。そんな治安の悪化に対応するためにつくられたのが特別銃装班、通称SGUである。

 

 物語の中心になるのはSGUに民間から採用された吉良恭太郎加成屋倫の二人の元自衛隊員。彼らはレンジャーの課程を修了した優秀な陸上自衛隊だったが、とある武装強盗事件に巻き込まれたことをきっかけに除隊させられていた。その後はそれぞれの生活を送っていたが、能力を買われて召集されることになる。

 彼らの他にも、警視庁内から抜擢された三津木静谷、民間登用で情報支援を担当するプログラマー桶川など、それぞれ個性的なメンバーが集う。

 そんな彼らのチームワークだが、「互いの個性と特技を尊重するのではなく、いかに自分のために活用するかという態度が、結果的に全員のパフォーマンスを最大化させた(p.121)」と作中で評されたのが非常に印象的だった。

 協調性のないスペシャリストたちは、協調性のないままに不思議と連携し、凶悪犯たちを制圧していく。そして次第に、一連の武装強盗事件の背後にいる黒幕に迫っていくのだ。

 そして物語の中盤には、これまでの事件の見え方がガラリと一変するような強力なフックが仕込まれている。是非そこまで読んで、驚きと戸惑いを感じてほしい。

 

 そんな本作だが、SGUの顛末を振り返ってまとめたドキュメンタリーのような体裁をとっているのも相まって、展開が若干ダイジェストのようになっているという印象は否めない。

 もし『SGU』がシリーズ作品であったならば、チームメンバーそれぞれの個性や、絆が深まっていく様子がより丁寧に書かれたことだろう。しかしそうなっていないのは、どこにも明言されていないものの、本作が配信ドラマのために書き下ろされた一冊だからなのではないだろうか。

 そのドラマだが『さらば、銃よ 警視庁特別銃装班』というタイトルで、「Lemino」という映像配信サービスから配信されている。Leminoはドコモが提供する新しい映像配信サービスで、『さらば、銃よ』は、いわばローンチタイトルの一つとなっている。

 ちなみに予告などを見る限り、原作では脇役だった管理職サイドの登場である真木(仲村トオル)と花田(舘ひろし)が、主役となっているらしい。原作とは違った物語が楽しめそうだ。

 また、版元がTOブックスというのも気になるところ。ホームページ見てみると、ライトノベルらしい華やかなイラストの表紙が並ぶなか、明らかに一冊だけ浮いていてすこし面白い。

 

 さて、そんな『SGU』は、過激化する暴力行為に対し、それを上回る暴力で対抗する物語である。実際に主人公たちは多くの犯罪者を撃ち殺しており、そのことの是非については、読者に委ねられている。
 しかしその一方で、対抗措置としての暴力はどうあるべきか、という点には明確な回答を示している。ぜひ、その辺りに注目して読んでみてほしい。