ミステリー
『賭博師は祈らない』『吸血鬼に天国はない』など電撃文庫の作品で知られる周藤蓮だが、昨秋、ハヤカワ文庫からの初めての著作『バイオスフィア不動産』が刊行された。 バイオスフィアⅢ型建築という特殊な建築物を舞台に、後香不動産に勤めるサービスコーデ…
近未来の東京を舞台にしたSF×刑事サスペンスである『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』は、ドラマシリーズ仕立ての小説となっている。というのも、本作は10のエピソードからなる連作短編の形式をとっており、日本人の刑事とアメリカ人の軍…
これぞ九龍城といったような密集した建築物の中に佇む一人の少女が描かれた、雰囲気満点の表紙が目を惹く本作。あらすじから百合の気配を感じて手に取った一冊だったが、妖しい魅力を湛えた香港の地と、そこで出会った三人の少女たちの絆が美しい、期待以上…
『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』でのデビューから20周年の節目を迎えた西尾維新。その記念作品として、新シリーズの第一弾『怪盗フラヌールの巡回』が刊行された。 「怪盗」とはいうものの、お宝を盗むのではなく、返却することがフラヌールの…
常日頃からメイド喫茶を愛好し、時にはメイド喫茶で執筆をすることもあるらしい作家・柴田勝家。そんな氏が遂にメイド喫茶を舞台にしたミステリー小説を刊行した。 推したり推されたりの関係が複雑に絡み合う濃いめな人間関係を、クールなベテランメイド・黒…
デビュー作『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』では、ごく近未来のAI技術をテーマに痛快なクライムサスペンスを仕上げた竹田人造。第二長編となる本作では、同じく男性バディが主人公でAIをテーマとしながらも、法廷に舞台を移し、超個性的な登…
前:森博嗣『君たちは絶滅危惧種なのか?』――動物園から消えた動物の正体は?未来を演算するWWシリーズ第5弾! - 汗牛未充棟 リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side? (講談社タイガ) 作者:森博嗣 講談社 Amazon 今で…
君たちは絶滅危惧種なのか? Are You Endangered Species? (講談社タイガ) 作者:森 博嗣 講談社 Amazon 科学の発展によって不老・長寿命を得た代わりに、生殖能力を失った人間。人工的につくられた人間・ウォーカロン。そして人工知能が共存する未来の社会を…
スーサイドホーム (二見ホラー×ミステリ文庫 し 1-1) 作者:柴田 勝家 二見書房 Amazon サンリンボー、台湾の心霊写真、呪いの荷物、それらの背後に潜むものとは。とある”家”にまつわる呪いに「助葬師」が挑む。 柴田勝家といえば、ハヤカワSFコンテストを『…
元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者:陸 秋槎 早川書房 Amazon 舞台となるのは前漢時代の中国。作中には多くの女性が登場するが、誰もが人生の選択肢において大きな制限を受けている。そんな彼女たちが自分の人生を生きるために選びとった行動は、きっと読…
歌の終わりは海 Song End Sea (講談社ノベルス) 作者:森博嗣 講談社 Amazon 探偵業を営む小川のもとに浮気調査の依頼が舞い込む。調査対象は高名な作詞家である大日向慎太郎。彼の邸宅の敷地には実姉が暮らす離れが建っており、「姉が恋人」とも噂…
老虎残夢 作者:桃野雑派 講談社 Amazon 「広い意味の推理小説」を募集する江戸川乱歩賞。今年度第67回は、伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』(「センパーファイ―常に忠誠を―」改題)と、今回紹介する桃野雑派『老虎残夢』の二作が同時受賞した。公式の惹句…
本書『文学少女対数学少女』は、2014年から2019年までに中国の雑誌などで発表された短編3本に、書き下ろし1本を加えて、中国は新星出版社から2019年4月に出版された連作短編集です。著者の長編第2作『雪が白いとき、かつそのときに限り』が翻訳されたときか…
人類最強の請負人・哀川潤が今回請け負った仕事は、天才心理学者・軸本みよりの調査活動への同行。哀川潤は依頼人である軸本みより、そしてパトロン兼お世話係として鴉の濡れ羽島から招聘したメイド長・班田玲とともに、ヴェネチアの地に降り立ちます。しか…
舞台となるのは、吸血鬼などの怪物が実際に息づく19世紀末の欧州。”怪物専門”の異形の探偵・輪堂鴉夜(りんどう あや)と、その弟子・真打津軽(しんうち つがる)が怪事件に挑む、ミステリ×怪異バトルの傑作です。 アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談…
TYPE-MOONがおくるアプリゲーム『Fate/Grand Order』の公式ミステリ小説アンソロジー。file.01と2ヶ月連続刊行となっています。file.01では60ページほどの短編が5本収録されていましたが、このfile.02では中編が3本収録されており、本数こそ減っているものの…
TYPE-MOONがおくるアプリゲーム『Fate/Grand Order』の公式小説アンソロジー。タイトルにあるとおり、ミステリー作品の短編を集めたものとなっています。筆を執るのは、Fateシリーズの原作者である奈須きのこの指名を受けて、FGOの期間限定イベント「虚月館…
科学の発展によって不老不死を得た代わりに生殖能力を失った人類と、人間によって造られた”ウォーカロン"(いわゆるアンドロイド)、そして人工知能が共存する近未来世界を描いたWシリーズ。その続編となるWWシリーズ第三作が本書『キャサリンはどのように子供…
メディアワークス文庫から刊行された野﨑まど作品の新装版シリーズ第3弾は学園ミステリ『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~ 新装版』。奥付を見ると初版となっていて、新装版は旧バージョンとは別の作品としてカウントされるんだなと、今更…
野﨑まどの第二長編となる『舞面真面とお面の女』。こちらの新装版が『[映]アムリタ』の新装版と同時発売となっている。 「伝記ミステリ」と謳われている本作だが、果たしてどこまで信じることができるのであろうか。 舞面真面とお面の女 新装版 (メディアワ…
科学の発展により寿命を克服し不老不死を得た代わりに生殖能力を失った人類と、人間によって造られた人型"ウォーカロン"(いわゆる人造人間)、そして人工知能が共存する近未来世界を描いたWシリーズ。その続編となるWWシリーズ第2作が本書『神はいつ問われる…
雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎,中村至宏,稲村文吾 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/10/03 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 日本在住の中国人作家、陸秋槎。『元年春之祭』に続く二作目の邦訳長編…
ロード・エルメロイII世の事件簿10 case.冠位決議(下)【書籍】 出版社/メーカー: TYPE-MOONBOOKS 発売日: 2019/05/17 メディア: CD-ROM この商品を含むブログを見る 2019年5月、『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 case.5 冠位決議 (下)』がめでたく発売され、…
森博嗣による「Gシリーズ」はこれまで愛知県のC大学に通う加部谷、山吹、海月、雨宮ら学生たち、そして院生から晴れて准教授となった西之園を中心に物語が展開してきた。しかし『χの悲劇』から始まるGシリーズ後期三部作はその様相を異にする。登場人物表…
※若干のネタバレ注意※ 森博嗣の探偵小説「Xシリーズ」。不在がちな店主に変わって「SYアート&リサーチ」を切り盛りする小川令子、「SYアート&リサーチ」に入り浸る芸大生の真鍋瞬一、彼らを中心に少しレトロな雰囲気で展開する、2007年にノベルスで第…
Gシリーズは7作目から後半戦へと突入。7~9作目のギリシャ文字が「α」「β」「γ」と始めの3文字で、10~12作目が「χ」「ψ」「ω」と終わりの3文字となっているのは偶然ではないだろう。 前半では事件が起きる間隔はとても短いものだったが、後半からは「α」と…
Gシリーズが続くなか、並行して開始されたのがこのXシリーズだ。この展開は計画通りのものだと公式サイトで著者も述べている。*1 Gシリーズの6作目『η』と7作目『α』の間で作中の時間がかなり跳ぶのだが、その間に刊行された『イナイ×イナイ』『キラレ×キ…
森博嗣のGシリーズ。4~6作目は、『εに誓って』『λに歯がない』『ηなのに夢のよう』。この辺りから新キャラクターや他シリーズのキャラクターも登場し、盛り上がりを増していく。3作目『τになるまで待って』までで、Gシリーズのレギュラーキャラクター(加部…
『χの悲劇』を読むためにGシリーズを読み返そうと思ってもはや三ヵ月。ようやく第1作目の『φは壊れたね』を手に取ることができたのだが、読み始めてからは早かった。ストーリーとキャラクターが魅力的で、ページをめくる手が止まらないというのももちろんだ…
重大なネタバレを踏む前にいい加減『χの悲劇』を読もう。しかしそのためにはGシリーズを最初から、いやそれ以前に遡って読み直さなければ。――そう思って先日『すべてがFになる』と『有限と微小のパン』を読み、そして『四季』シリーズ全4冊も読破した。つ…