汗牛未充棟

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SF

陸秋槎『ガーンズバック変換』――中世ファンタジーから現代お仕事もの、近未来SF、さらには架空伝記から異常論文まで幅広く収録された著者初のSF短編集!

デビュー作の『元年春之祭』(2018,早川書房)をはじめ、『雪が白いとき、かつそのときに限り』(2019,同)、『文学少女対数学少女』(2020,同)など、華文ミステリの名手として知られる陸秋槎。そんな陸は、『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』(2019,同)…

〈anon press〉の「anon future magazine」が期間限定無料公開されているので、約50作の中からおすすめを4作紹介する

人類の未来の可能性を探るような正統派SFから、身体を機械化した極道たちが暴れて臓物とルビが乱れ飛ぶサイバーパンク、さらには小説だけでなく詩や漫画まで。そんな様々な作品が掲載されている「anon future magazine」は、SF作家の樋口恭介や青山新らによ…

冲方丁『SGU 警視庁特別銃装班』――銃には銃を、凶悪化する銃犯罪にスペシャリストたちが立ち向かう!

昨年12月の『骨灰』続き先月末の『マイ・リトル・ヒーロー』と、雑誌連載された作品の単行本化が続いた冲方丁だが、その最中に突如として刊行が告知されたのが今回紹介する『SGU 警視庁特別銃装班』。 しかもサプライズはそれだけでなく、本作を原作としたド…

夏海公司『はじまりの町がはじまらない』――優柔不断なヘタレ町長と迅速果断な毒舌秘書官のクソゲー改革!

昨秋、ハヤカワ文庫JAから刊行された『はじまりの町がはじまらない』は、とある過疎MMORPGをサービス終了の危機から救うため、自我に目覚めたNPCたちが奮闘するSF作品。 著者は『なれる!SE』や『ガーリー・エアフォース』の夏海公司で、前回紹介した周藤蓮…

周藤蓮『バイオスフィア不動産』――完全無欠の住居を得た人類は、それ以上何を望むのか。SF+ミステリな連作短編集。

『賭博師は祈らない』『吸血鬼に天国はない』など電撃文庫の作品で知られる周藤蓮だが、昨秋、ハヤカワ文庫からの初めての著作『バイオスフィア不動産』が刊行された。 バイオスフィアⅢ型建築という特殊な建築物を舞台に、後香不動産に勤めるサービスコーデ…

マルカ・オールダー/フラン・ワイルド/ジャクリーン・コヤナギ/カーティス・C・チェン『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』――刑事と軍人の女性バディが分断された東京で怪事件に挑む、ドラマ仕立てのSF刑事サスペンス!

近未来の東京を舞台にしたSF×刑事サスペンスである『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』は、ドラマシリーズ仕立ての小説となっている。というのも、本作は10のエピソードからなる連作短編の形式をとっており、日本人の刑事とアメリカ人の軍…

宮澤伊織『神々の歩法』――少女と戦闘サイボーグたちが”神”に挑む。『裏世界ピクニック』著者のSFレーベルデビュー作が遂に刊行!

神々の歩法 (創元日本SF叢書) 作者:宮澤 伊織 東京創元社 Amazon 早川書房より刊行中の『裏世界ピクニック』シリーズがアニメ化もした宮澤伊織。彼のSF作家としてキャリアのスタートでもある『神々の歩法』が、遂に東京創元社から刊行された。 「神々の歩…

日本SF作家クラブ編『2084年のSF』――新しい作家の発掘にオススメ、近未来SFのショーケース!

2084年のSF (ハヤカワ文庫JA) 作者:日本SF作家クラブ編 早川書房 Amazon 日本SF作家クラブによる「2084年」がテーマの書き下ろしアンソロジー。日本SF作家クラブからは昨年の4月にも『ポストコロナのSF』というアンソロジーが刊行されているが、執筆陣は…

竹田人造『AI法廷のハッカー弁護士』――傲岸不遜なハッカー弁護士&「得意科目は道徳」な依頼人バディ 対 超個性的な証人たちの法廷バトル!

デビュー作『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』では、ごく近未来のAI技術をテーマに痛快なクライムサスペンスを仕上げた竹田人造。第二長編となる本作では、同じく男性バディが主人公でAIをテーマとしながらも、法廷に舞台を移し、超個性的な登…

森博嗣「リアルの私はどこにいる?」――ヴァーチャルへログイン中に消失したリアルの肉体の行方は。未来を演算するWWシリーズ第6弾!

前:森博嗣『君たちは絶滅危惧種なのか?』――動物園から消えた動物の正体は?未来を演算するWWシリーズ第5弾! - 汗牛未充棟 リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side? (講談社タイガ) 作者:森博嗣 講談社 Amazon 今で…

森博嗣『君たちは絶滅危惧種なのか?』――動物園から消えた動物の正体は?未来を演算するWWシリーズ第5弾!

君たちは絶滅危惧種なのか? Are You Endangered Species? (講談社タイガ) 作者:森 博嗣 講談社 Amazon 科学の発展によって不老・長寿命を得た代わりに、生殖能力を失った人間。人工的につくられた人間・ウォーカロン。そして人工知能が共存する未来の社会を…

牧野修『MOUSE マウス』――大人は立ち入り禁止、子供のためのネバーランド。ドラッグジャンキーなマウスたちの生存と闘争。

MOUSE マウス (ハヤカワ文庫JA) 作者:牧野 修 早川書房 Amazon ラバーやビニールの衣服に身を包み、常時ドラッグ漬けの子供たち。主観と客観の入り混じった子供だけの世界で、彼ら彼女らはどのように生きているのか。 2022年4月16,17日に代官山蔦屋書店で開…

『GENESiS 時間飼ってみた 創元日本SFアンソロジーⅣ』――どちらも超個性的な第12回創元SF短編賞正賞&優秀賞受賞作も掲載!

Genesis 時間飼ってみた 創元日本SFアンソロジー 作者:小川 一水,川野 芽生,宮内 悠介,宮澤 伊織,小田 雅久仁,高山 羽根子,鈴木 力,溝渕 久美子,松樹 凛 東京創元社 Amazon 東京創元社による全編書き下ろしのSFアンソロジー第4弾。創元SF短編賞出身…

塗田一帆『鈴波アミを待っています』――Vtuber、そしてVRの現在と未来を描く物語

鈴波アミを待っています 作者:塗田 一帆 早川書房 Amazon Vtuber(バーチャルYoutuber)とは2Dや3Dのキャラクターをアバターとして活動する配信者のこと。 企業に所属しない個人勢ながら、そのVtuberとしてトップクラスの人気を誇っていた「鈴波アミ」だったが…

小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』――大切な人を取り戻せ。百合もSFも大増量の第2巻!

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2 (ハヤカワ文庫JA) 作者:小川 一水 早川書房 Amazon 人類が宇宙に進出してから数千年。辺境宇宙のガス惑星、FBB(ファット・ビーチ・ボール)の軌道上に移住した人々は周回者(サークス)を名乗り、昏魚(ベッシュ)と呼…

人間六度『スター・シェイカー』――少女を守る戦いはやがて宇宙存亡の危機へ、アイディア満載のインフレ・テレポート・SF!

テレポートを使って一瞬で移動出来たら。そんな誰もが一度は考えたことがあるだろう妄想を、極限まで考え詰めたのがこの『スター・シェイカー』だ。ボーイ・ミーツ・ガールから始まった物語は、跳躍を繰り返し、やがてこの宇宙の秘密にまでたどり着く。 スタ…

早見慎司『死なないセレンの昼と夜 ー世界の終わり、旅する吸血鬼ー』――枯れ果てた世界でも、一杯のコーヒーはいかが?

死なないセレンの昼と夜 ‐世界の終わり、旅する吸血鬼‐ (電撃文庫) 作者:早見 慎司 KADOKAWA Amazon 雨が降らなくなって数百年、とうに現代文明は崩壊し、見渡すばかりの荒野が広がる世界。そんな世界をサイドカー付きの三輪バイクで旅しながら、気まぐれに…

空木春宵『感応グラン=ギニョル』――”傷”を、"痛み"を読者に共有させる、いま必読の怪奇幻想+SF短編集

感応グラン=ギニョル (創元日本SF叢書) 作者:空木 春宵 東京創元社 Amazon 怪奇・幻想小説やSFジャンルで活躍する新鋭、空木春宵の初の短編集『感応グラン=ギニョル』が、遂に創元SF叢書より刊行された。空木は2011年の第2回創元SF短編賞において、「繭の…

【コラム】宮澤伊織作品に見るゲーム的表現 ウォーキングシミュレーターと環境ストーリーテリング

ウォーキングシミュレーターというゲームジャンルをご存知でしょうか。私はとあるラジオの特集でその存在を知ったのですが、その特徴を聞くうちに、SF作家・宮澤伊織のとある短編のことを思い出しました。 この記事では「ウォーキングシミュレーター」、そし…

【レビュー】実は〇〇SFだった!?伴名練&けーしんによる「コミック百合姫」表紙連載を読み解く

年間を通して一人のイラストレーターが表紙を担当するコミック百合姫。これまでにもフライ、白身魚、ろるあなどの著名なイラストレーターが担当し、それぞれの世界観で読者を魅了してきたが、2021年は作家・伴名練とイラストレーター・けーしんのコンビが担…

茅田砂胡『天使たちの課外活動』7,8—―【コラム】終わらないエピローグという読者の理想、あるいは茅田砂胡ワールド超入門

どんな物語であれ、終わりはつきものです。小説に限らず、漫画やゲームが描く物語の虜となり、エンディングを迎えたあとも、愛したキャラクターたちの物語をもっと見たいと願った経験は、誰しもあるのではないでしょうか。 そうはいっても終わってしまった以…

映画『JUNK HEAD』――【レビュー】ストップモーションで創られた驚異の地底世界冒険SF

3月末に公開された堀貴秀監督作品『JUNK HEAD』。先日地元の劇場でも公開されたので見てきました。 ほとんど独力で制作された長編のストップモーションアニメというだけでも驚きですが、強烈なビジュアルイメージを備えたSF作品でもあり、是非多くの人に見…

宮澤伊織『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』――【コラム】つまりTさんは何をしにやってきたのか

寺生まれのTさんは何をしにやってきたのか。それはもちろん「破ぁ!!」で怪異を退治するためであり、『裏世界ピクニック』最新6巻においては、裏世界に関わってしまった人の記憶を「破ぁ!!」で封印するためにやってきたに決まっています。 しかしメタ的な…

【コラム】ソードアート・オンライン ”プログレッシブ” シリーズの3つの縦軸と10層問題

本物のデスゲームと化したVRMMO-RPG「ソードアート・オンライン」。100層からなるゲームの舞台「アインクラッド」の攻略を、1層から順番に描くSAO外伝プログレッシブシリーズは、最新7巻が先日発売されました。7層にたどり着いたキリトとアスナは、ベータテ…

花田一三六『蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale』――【レビュー】三文文士と毒舌妖精のスチームパンク・ロードノベル

挑発的な表情の少女のイラストが目を惹く花田一三六『蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale』は、三文文士と毒舌妖精のコンビによる、スチームパンク・ロードノベルとなっています。 ロードノベルはそのまま旅行記でいいとして、ジャンル名としてよく聞く「スチ…

オキシタケヒコ『筺底のエルピス7-継続の繋ぎ手-』――【コラム】繰り返される《門部》攻略戦。《門部》という筺の底に希望は眠るのか。

(※記事中に7巻までのネタバレを含みます。) 憑依した人間に抗えない殺人衝動をもたらす「殺戮因果連鎖憑依体」。そのような超常の存在に対し、「停時フィールド」という能力で戦う人々を描いたSF異能バトル小説『筺底のエルピス』の待望の7巻が発売されま…

梧桐彰『その色の帽子を取れ-Hackers' Ulster Cycle-』&竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』――【レビュー】”現在”を描いた二つのSFから見る技術(者)と倫理

昨年11月に出版された二つのSF作品。両者に関連はありませんが、どちらも現在の技術、もしくはその延長線上のごく近いところにある技術を扱ったSFサスペンスという点で、共通しています。さらに、物語の軸として、二人の男性の関係性の変化を描いている点で…

時雨沢恵一『レイの世界 -Re:I- 1 Another World Tour』――”ⅡⅤ”発!すこし ふしぎ なアイドル活動【レビュー】

時雨沢恵一と黒星紅白という鉄板コンビの新作『レイの世界』は”ⅡⅤ”が手掛ける初の紙書籍として刊行されました。ですがそもそも、”ⅡⅤ”とはいったい何なのでしょうか。 レイの世界 ―Re:I― 1 Another World Tour 作者:時雨沢 恵一 発売日: 2021/01/25 メディア:…

宮澤伊織『そいねドリーマー』――現実では初対面、でも夢の世界では恋人同士。もうひとつの”裏世界”の冒険。

TVアニメ「裏世界ピクニック」が好評放送中の宮澤伊織が2018年に書き下ろした『そいねドリーマー』がこの度文庫化となりました。実話怪談の怪異がはびこり、危険なグリッチに溢れた恐ろしい裏世界とは異なり、想像力次第でなんでもできるもう一つの”裏世界”…

2021年ブレイク必至!”古典”を題材に”痛み”を書くSF作家・空木春宵 商業作品まとめ

2020年も残り2週間ほどとなり、年間ベストが次々と発表される時期になりました。年明けには「SFが読みたい!」の2021年版も刊行され、今年のベストSF作品が発表されるでしょう。 しかし今回は一足も二足も早く、来年(2021年)の年間ベストに選ばれるに違いな…