汗牛未充棟

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甲田学人『ほうかごがかり』ーー異相の小学校で怪異と向き合え!新作ホラーラノベが面白い!

 

 久し振りに発売月に手に取った新作ライトノベル甲田学人『ほうかごがかり』。とても面白く読み終えました。

 

 ライトノベルでオカルトバトルではないタイプのホラー作品は珍しいのでは?

 これは一般文芸のホラー作品ブームがライトノベルにも流入したのかも!とか。

 

 うっかりすると自分の狭い観測範囲から、それっぽいことを言いたくなってしまいますが、例の騒ぎを他山の石として、気を付けたいものです。

 

 

 

あらすじ

 小学6年生に進級したばかりの二森啓は、ある日の放課後、黒板に「ほうかごがかり 二森啓」と書かれているのを見つける。

 単なるイタズラかに思えたそれだったが、異変はその日の深夜に訪れる。

 啓が自分の部屋で寝ていると、突如として学校のチャイムが鳴り響き、強制的に小学校へと移動させられてしまったのだ。

 しかもそこは啓の通う小学校に見えて、明らかに様子がおかしい。学校の敷地は墓地と亡霊らしきものに取り囲まれ、それより外の様子は暗闇に没して確認できない。さらに校内は、所々電気がついているものの妙に薄暗く、不安を煽ってくる。

 そんな奇妙な小学校に呼び出された啓は、ほかにも6人いる「ほうかごがかり」のメンバーとともに、「かかり」の活動を行うことになる。

 異界化した深夜の小学校という舞台は、まるで怪物から逃げ惑うタイプのデスゲームが始まりそうな雰囲気だが、「ほうかごがかり」の活動はそのように物理的に迫る脅威を伴うものではない。

 この深夜の小学校には、通称「無名不思議(ナナフシギ)」と呼ばれる怪談の種のようなものが存在しており、それらを「かかり」が観察・記録することで、それらが「学校の怪談」に成長するのを防ぐことができるのだそうだ。

 啓が担当することになった「無名不思議」は、屋上で赤い靄のようなものが人の形をとっている、通称「まっかっかさん」。

 観察して記録するだけ、状況に比してそれほど危険はないように思える活動内容だが、はたして……。

 

読者の想像力が恐怖を煽る

 世間にはホラーと小説は相性が悪いなどとのたまう人もいるようだが、もちろんそんなことあるはずない。

 本作では特に、起きてほしくない未来を予感させるような描写が恐怖を煽り立てる。

 

 街の灯りが消え去り、暗闇の中に浮かぶ学校の屋上

 唯一の光源である、出入り口の蛍光灯

 蛍光灯が投げかける光の輪の境界に佇む赤い影

 そして、その先にある人一人が通れそうなフェンスの破れ目

 

 意味深に配置されたいくつかの要素が、読者の想像力を刺激し、嫌でも恐ろしい展開を予感させる。

 そしてその予感が当たらないようにと祈りながらも、それを確認したくて、次々と先を読んでしまうのだ。

 

怪異と向き合う主人公の静かな戦い

 そんな「無名不思議」に対して、啓はどのように対処していくのか。

 絵を描くことが得意な啓は、「まっかっかさん」を自分のスケッチブックに描き写すことで、完璧な記録をしようとする。

 絵が得意といっても、美術の成績が良いといった程度のことではなく、家庭の事情も相まって、啓には既に芸術家としての芯のようなものをその身に備えている。

 そんな啓は絵に描き写すことで「まっかっかさん」の本質を捉えようとするが、しかし相手は不定形の靄のような存在で、なかなか形を捉えることはできない。

 それでも何とか「まっかっかさん」を捉えようとする啓の静かな戦いは、バトルものの戦闘シーンにも勝るとも劣らない緊迫感で書かれており、本を掴む手に思わず力がこもってしまう。

 

家庭環境が違う二人の友情に注目

 それとこれは個人的な好みではあるが、主人公の動機が、一緒に巻き込まれたクラスのアイドル的存在を助けるために頑張るといったような、安易なヒロイズムに偏らなかったのが良かった。

 この1巻ではむしろ、友情面がフォーカスされる。

 啓には緒方惺という2年生の頃からの親友がいるのだが、5年生になった頃から、何故か惺に避けられるようになってしまっていた。

 その惺も実は「ほうかごがかり」に選ばれており、係活動を通して交流が再開する。

 そんな啓と惺の二人は、きっと成長してからでは出会えなかっただろうと思えるほどに、家庭環境に大きな差がある。

 しかしどちらも大人びたところのある二人は、恐らくその差を理解していて、対等な関係が崩れないように、非常に気を遣っている様子が見てとれる。

 環境のちがいや、そもそも「ほうかごがかり」という恐ろしい怪現象を、彼らの友情は乗り越えられるのか、続刊に期待したい。