汗牛未充棟

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百合

陸秋槎『ガーンズバック変換』――中世ファンタジーから現代お仕事もの、近未来SF、さらには架空伝記から異常論文まで幅広く収録された著者初のSF短編集!

デビュー作の『元年春之祭』(2018,早川書房)をはじめ、『雪が白いとき、かつそのときに限り』(2019,同)、『文学少女対数学少女』(2020,同)など、華文ミステリの名手として知られる陸秋槎。そんな陸は、『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』(2019,同)…

マルカ・オールダー/フラン・ワイルド/ジャクリーン・コヤナギ/カーティス・C・チェン『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』――刑事と軍人の女性バディが分断された東京で怪事件に挑む、ドラマ仕立てのSF刑事サスペンス!

近未来の東京を舞台にしたSF×刑事サスペンスである『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』は、ドラマシリーズ仕立ての小説となっている。というのも、本作は10のエピソードからなる連作短編の形式をとっており、日本人の刑事とアメリカ人の軍…

月原渉『九龍城の殺人』――多様な文化と欲望が渦巻く香港は九龍城、3人の少女の絆が試される

これぞ九龍城といったような密集した建築物の中に佇む一人の少女が描かれた、雰囲気満点の表紙が目を惹く本作。あらすじから百合の気配を感じて手に取った一冊だったが、妖しい魅力を湛えた香港の地と、そこで出会った三人の少女たちの絆が美しい、期待以上…

小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』――大切な人を取り戻せ。百合もSFも大増量の第2巻!

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2 (ハヤカワ文庫JA) 作者:小川 一水 早川書房 Amazon 人類が宇宙に進出してから数千年。辺境宇宙のガス惑星、FBB(ファット・ビーチ・ボール)の軌道上に移住した人々は周回者(サークス)を名乗り、昏魚(ベッシュ)と呼…

陸秋槎『元年春之祭』――前漢時代の中国、家に縛られた少女たちに自分の人生を生きる術はあるのか。中国発の本格ミステリ。

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者:陸 秋槎 早川書房 Amazon 舞台となるのは前漢時代の中国。作中には多くの女性が登場するが、誰もが人生の選択肢において大きな制限を受けている。そんな彼女たちが自分の人生を生きるために選びとった行動は、きっと読…

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』――独ソ戦を戦い抜いた狙撃手の少女、最後に見出した”撃つべき敵”とは

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 逢坂冬馬のデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』は、発売前から大きな注目を集めていた。ゲームクリエイターの小島秀夫をはじめとした著名人や先読みした書店員が絶賛していると、出版元の早川書房もマ…

桃野雑派『老虎残夢』――ミステリのお約束を次々と破壊、異色の武侠ミステリ!

老虎残夢 作者:桃野雑派 講談社 Amazon 「広い意味の推理小説」を募集する江戸川乱歩賞。今年度第67回は、伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』(「センパーファイ―常に忠誠を―」改題)と、今回紹介する桃野雑派『老虎残夢』の二作が同時受賞した。公式の惹句…

空木春宵『感応グラン=ギニョル』――”傷”を、"痛み"を読者に共有させる、いま必読の怪奇幻想+SF短編集

感応グラン=ギニョル (創元日本SF叢書) 作者:空木 春宵 東京創元社 Amazon 怪奇・幻想小説やSFジャンルで活躍する新鋭、空木春宵の初の短編集『感応グラン=ギニョル』が、遂に創元SF叢書より刊行された。空木は2011年の第2回創元SF短編賞において、「繭の…

【レビュー】実は〇〇SFだった!?伴名練&けーしんによる「コミック百合姫」表紙連載を読み解く

年間を通して一人のイラストレーターが表紙を担当するコミック百合姫。これまでにもフライ、白身魚、ろるあなどの著名なイラストレーターが担当し、それぞれの世界観で読者を魅了してきたが、2021年は作家・伴名練とイラストレーター・けーしんのコンビが担…

宮澤伊織『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』――【コラム】つまりTさんは何をしにやってきたのか

寺生まれのTさんは何をしにやってきたのか。それはもちろん「破ぁ!!」で怪異を退治するためであり、『裏世界ピクニック』最新6巻においては、裏世界に関わってしまった人の記憶を「破ぁ!!」で封印するためにやってきたに決まっています。 しかしメタ的な…

宮澤伊織『そいねドリーマー』――現実では初対面、でも夢の世界では恋人同士。もうひとつの”裏世界”の冒険。

TVアニメ「裏世界ピクニック」が好評放送中の宮澤伊織が2018年に書き下ろした『そいねドリーマー』がこの度文庫化となりました。実話怪談の怪異がはびこり、危険なグリッチに溢れた恐ろしい裏世界とは異なり、想像力次第でなんでもできるもう一つの”裏世界”…

陸秋槎『文学少女対数学少女』――タイトルが示すものは実は○○○対○○○だった説!

本書『文学少女対数学少女』は、2014年から2019年までに中国の雑誌などで発表された短編3本に、書き下ろし1本を加えて、中国は新星出版社から2019年4月に出版された連作短編集です。著者の長編第2作『雪が白いとき、かつそのときに限り』が翻訳されたときか…

石川博品『ボクは再生数、ボクは死』――炎上上等過激配信!刹那主義の果てに何をつかむのか

シノはきれいの中を猛スピードで駆け抜けるだけの生き方をしたかった。その先に何があるのかは知らない。(p.264) これは主人公・シノのモノローグです。倫理的に危うい配信活動を繰り返し、急速に配信者としてのステップを駆け上がっていくシノ。その刹那…

『マルドゥック・アノニマス5』冲方丁――新たな家族を迎えるバロット。再生の5巻。

マルドゥックシティという巨大都市を舞台に、能力者たちの闘争を描く『マルドゥック・アノニマス』。5巻ではバロットが、かつての自分を思わせる少女アビゲイルと向き合います。 マルドゥック・アノニマス 5 (ハヤカワ文庫JA) 作者:冲方 丁 発売日: 2020/05…

『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』小川一水――偏見や因習をはねのけて、ツインスターが宇宙を駆ける

ハヤカワ文庫発の百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』にてトリを飾った、小川一水の「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」。辺境宇宙で女同士のでこぼこコンビが、因習や偏見と戦いながら魚っぽいものを捕まえるという、漁業百合SFが長編版と…

『こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』陸道烈夏――”ラジオ”を武器に歪な世界を這い上がれ!

第26回電撃小説大賞では、アニラジをテーマにした『声優ラジオのウラオモテ』が大賞を受賞しましたが、同じく銀賞を受賞した『こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』においても、重要なキーアイテムとしてラジオが登場します。 唯…

10年代最後のSFアンソロジー!――『GENESIS 白昼夢通信 創元日本SFアンソロジー』

少女・ 先日ハヤカワ文庫JAから『2010年代SF傑作選Ⅰ,Ⅱ』が発売されました。2010年代のSFを総括するアンソロジーであると同時に、2020年つまりは20年代最初のSFアンソロジーでもあります。 では逆に2019年ラスト、すなわち10年代の最後を締めくくったSFアンソ…

同人発!ワイドスクリーン百合バロックSF!――草野原々『最後にして最初のアイドル』

「まだ読んでなかったんですか?」 「……はい」 「読んでないのに別の記事で『これぞ原々流』みたいなこと言ってたんですか?」 「…………はい」 最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA) 作者:草野 原々 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/01/24 メデ…

外国育ちで顔の良い女は銃器の扱いに長けがち――ツカサ『明日の世界で星は煌めく』

文明が崩壊した後の世界。人気は途絶え、どこまでも続く広大な廃墟、もしくは荒野を二人ぼっちの少女たちが旅をする。 「ポストアポカリプス百合」とでもいいましょうか、そういう類の作品が好きだなと、最近自覚しました。具体的には『少女終末旅行』や『ひ…

第3期2号は捕鯨アイドル、野生のコンビニ、百合SF――大森望 責任編集『NOVA 2019年秋号』

大森望責任編集のもと、新作・書下ろしのSF短編を集めたアンソロジー。第一期十冊、第二期二冊を経て2019年から始まった第三期『NOVA』の第二号となります。 まえがきを読むと「隔月刊の〈SFマガジン〉に続く文庫版のSF専門誌――になれるかどうかは定かじゃあ…

10年代ラスト、すべてをぶっ壊す問題作――草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA) 作者:草野原々 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/12/19 メディア: Kindle版 〈あらすじ〉 前作『大進化どうぶつデスゲーム』で辛くもネコ宇宙の侵食を退けた星智慧女学院3年A組の生徒たち。それから三ヵ…

季節は冬、関係性も裏世界の恐怖も加速する!――宮澤伊織『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』

4巻の発売にあわせて特別PVが公開されたり、書店で大々的にフェアが組まれたりと、いま勢いのある『裏世界ピクニック』。この4巻では空魚と鳥子の関係に大きな進展がありました。ネタバレありで感想をつらつらと書きましたので、シリーズを未読という方…

続刊発売直前!生物種の進化を賭けた冒険ハード百合SF!――草野原々『大進化どうぶつデスゲーム』

今週12月19日に発売予定の草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』。その前作にあたる『大進化どうぶつデスゲーム』を発売時に買ったきり積んでしまっていたので、新刊の発売を機に読むことにしました。とはいえ、担当編集によると「前作読んでなくてもいい第2…

ステータスオールAみたいなやばいやつ――伴名練『なめらかな世界と、その敵』

劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』はもう皆さん観たでしょうか。ワンピース初のオールスター映画ということで、各勢力から様々なキャラクターが登場し、たいへん素晴らしいお祭り映画となっていました。特に終盤でルフィとともに、同じルーキーのトラファルガー…

【随時更新】「ハヤカワ文庫の百合SFフェア」 新刊全レビュー‼

【1】 SFマガジン編集部編『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』 アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA) 作者: S‐Fマガジン編集部 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/06/20 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 20…