汗牛未充棟

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感動を語り継ぐということ――伴名練「白萩家食卓眺望」

 作家としては『なめらかな世界と、その敵』でベストSF2019国内編1位を獲得し、アンソロジストとしては先日『2010年代SF傑作選』全2巻が発売されたばかりの伴名練の最新作「白萩家食卓眺望」が、SFマガジン2020年4月号に掲載されています。

 

SFマガジン2020年04月号

SFマガジン2020年04月号

  • 発売日: 2020/02/25
  • メディア: 雑誌
 

 

 物語の主人公・白萩たづ子は味覚―視覚型の共感覚を持っており、何かを食べたりすると味覚で味を感じるとともに、赤かったり黒かったりと、視覚も反応します。あるとき代々伝わる料理帖に掲載されていた「逆浜豆腐」という料理を食べてみると、たづ子の視界には天地が逆さまになった、美しい浜辺の風景が現れました。このように、共感覚者に様々な光景を見せる料理が記された料理帖と、たづ子にまつわる物語が語られます。

 本作についての感想を既に多く語られており、その中には「これはSF小説とアンソロジーをモチーフにした話ではないか」「アンソロジストとしての作者の決意表明だ」といった内容のものも多くありました。(他の人の感想を読んで「そういうことか!」となることがとても多いので、いつも助かっています。)

 

 

 東北大SF研のVtuber・卜部理玲さんの解説はこのツイートから始まるツリーで読むことができます。

 

 今更私などが言えることもないのですが、この「白萩家食卓眺望」とその感想などを読んで感じたことを書いてみたいなと思います。

 料理のレシピがSF小説を示しているとするならば、たづ子がそれらの料理を食べることで見る不思議な光景は、そのまま数々のSF作品が私たち読者に対して見せてくれる未来の、もしくは並行世界などの光景を示しているといえるでしょうか。その光景はただ美しいばかりではなく、ときには恐ろしかったり、ときには不気味であったりと、料理(作品)によって様々です。

 しかし、それらの光景は万人が見ることができるわけではありません。料理帖のレシピが導く光景は共感覚者しか見ることはできず、SF作品もまた、常に娯楽のメインストリームにあって広く大衆に受け入れられてきたわけではありませんでした。(もちろんこれは凡そのジャンルで同じことが言えますが。)

 どれほど素晴らしい光景を見せてくれる作品であろうと、受け取り手がいなければ簡単にこの世から消え去ってしまうことは、たづ子の身に起きた悲劇を引用するまでもないでしょう。伴名練はこのことに対する危機感を、『なめらかな世界と、その敵』の「あとがきに代えて」をはじめ、何度も主張しています。

 

www.hayakawabooks.com

 

 自分がSF小説から受け取った感動を、同じように受け取る人が必ずいるに違いないと信じて、それらの作品が決して忘れ去られないように語り継いでいく。そういった志を感じました。今後発売される伴名練編のアンソロジーがますます楽しみです。

 

 

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