汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

第162回直木賞候補作。時系列を巧みに操るSF短編集。――小川哲『嘘と正典』

第162回直木賞の候補作にもなった『嘘と正典』。受賞すればSF作品としては二作目の受賞になったとのこと。残念でした。 しかし、候補作となったことで注目度が上がったのも事実。SF作品と言っても表題作の「嘘と正典」以外はそれほどSF然としていないので、…

同人発!ワイドスクリーン百合バロックSF!――草野原々『最後にして最初のアイドル』

「まだ読んでなかったんですか?」 「……はい」 「読んでないのに別の記事で『これぞ原々流』みたいなこと言ってたんですか?」 「…………はい」 最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA) 作者:草野 原々 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/01/24 メデ…

外国育ちで顔の良い女は銃器の扱いに長けがち――ツカサ『明日の世界で星は煌めく』

文明が崩壊した後の世界。人気は途絶え、どこまでも続く広大な廃墟、もしくは荒野を二人ぼっちの少女たちが旅をする。 「ポストアポカリプス百合」とでもいいましょうか、そういう類の作品が好きだなと、最近自覚しました。具体的には『少女終末旅行』や『ひ…

第3期2号は捕鯨アイドル、野生のコンビニ、百合SF――大森望 責任編集『NOVA 2019年秋号』

大森望責任編集のもと、新作・書下ろしのSF短編を集めたアンソロジー。第一期十冊、第二期二冊を経て2019年から始まった第三期『NOVA』の第二号となります。 まえがきを読むと「隔月刊の〈SFマガジン〉に続く文庫版のSF専門誌――になれるかどうかは定かじゃあ…

偽りの聖杯戦争三日目、「ゆめのなか」からの脱出劇!――成田良悟『Fate/strange Fake⑥』

米国はスノーフィールドにて召喚されたセイバーを除く6騎の英霊たち。そして彼らを呼び水にして、さらに召喚された7騎の英霊たち。合計13騎の英霊が相争う「偽りの聖杯戦争」、その三日目の朝が静かに明けようとしていた。 Fate/strange Fake(6) (電撃文庫) …

カンボジアをめぐる二人の”ゲーム”。”ゲームの王国”は成立するのか。――小川哲『ゲームの王国(下)』

miniwiz07.hatenablog.com 上巻の記事でも少し触れましたが、この『ゲームの王国』の上巻を読んでから初めて下巻のあらすじを読んだとき衝撃を受けました。上巻のラストから、ムイタックとソリヤが和解してポル・ポトを倒す、みたいな展開をぼんやりと予想し…

札幌が日本列島を蹂躙する⁉――草野原々「札幌 vs. 那覇」

東北芸術工科大学芸術学部文芸学科から刊行されている雑誌「文芸ラジオ」の5号に掲載された草野原々の書下ろし短編「札幌 vs. 那覇」は、次のような書き出しで始まります。 札幌が仙台を完膚なきまでに破壊!*1 もうこの段階で訳が分からない。「横浜駅が増…

ポルポト政権下、理不尽なゲームを生き抜く人々の物語――小川哲『ゲームの王国(上)』

一つの物語が上下巻の分冊になる場合、当然下巻の裏表紙には下巻のあらすじが書かれるわけですが、そこに上巻のネタバレが含まれることは避けられません。なので上下巻の本を買う際、私はなるべく下巻のあらすじを読まないようにしているのですが、この『ゲ…

呪術廻戦ノベライズ第2弾!伊地知回もあります!――北國ばらっど『呪術廻戦 夜明けのいばら道』

現在週刊少年ジャンプで連載中の芥見下々『呪術廻戦』、そのノベライズ第2弾となります。 今回も作中にキャラクターや世界観の説明がなく、完全に原作読者向けとなっています。また、作中に本編最新刊のネタバレがあるため、同時発売の8・9巻を読了後にこの…

七海、伊地知、真人好きにオススメです――北國ばらっど『呪術廻戦 逝く夏と還る秋』

皆さまお正月はいかがお過ごしでしょうか。 私は実家で毎日12時間くらい寝ています。お陰でこのブログの更新も不安定になる始末。まあ、概ね理想のお正月と言ってよいでしょう。 さて、今回取り上げるのは、現在週刊少年ジャンプで連載中の芥見下々『呪術廻…

創元SF短編賞受賞のアクションSF――宮澤伊織「神々の歩法」「草原のサンタ・ムエルテ」

新年、あけましておめでとうございます。 このブログが週3回の更新となって2か月ですが、来年もこのペースで続けていけるよう頑張ります。 さて、新年一発目は宮澤伊織の短編を紹介したいと思います。 「神々の歩法」は第六回創元SF短編賞の受賞作品で、『年…