汗牛未充棟

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創元SF短編賞受賞のアクションSF――宮澤伊織「神々の歩法」「草原のサンタ・ムエルテ」

 新年、あけましておめでとうございます。
 このブログが週3回の更新となって2か月ですが、来年もこのペースで続けていけるよう頑張ります。

 

 さて、新年一発目は宮澤伊織の短編を紹介したいと思います。

 「神々の歩法」は第六回創元SF短編賞の受賞作品で、『年間日本SF傑作選 折り紙衛星の伝説』に収録されているほか、電子版では単独で配信されています。お値段なんと99円!『裏世界ピクニック』などで著者のファンになったという方には、とりあえず購入していただきたいところです。

 

神々の歩法 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
 

 

 そして『Genesis 一万年の午後』に収録された「草原のサンタ・ムエルテ」は「神々の歩法」の続編となります。こちらも単独で電子版が配信されています。

 

 

 「草原のサンタ・ムエルテ」の発表がちょうど一年前なので、このシリーズに関しては一年間新作の情報がないことになります。「草原の~」がアンソロジーへの収録作品であるため、電子版の売り上げが続編の有無にかなり影響してくると思われます。ぜひたくさんの人に買ってほしいのですが、肝心のストーリーはどのようなものなのでしょうか。

 

〈あらすじ〉

 人が消え、廃墟とのなった北京。砂嵐が吹きすさぶなか、紫禁城を進むウォーボーグたちの姿があった。ウォーボーグとは戦闘用に全身をチューンアップされた戦闘用のサイボーグたち。彼らの標的は、突如北京の上空に現れ、街を火の海に変えた一人の男だった。接敵したウォーボーグたちは次々と銃弾を撃ち込むが、男に効いた様子は全くなく、成すすべなく火に包まれていく。遂にリーダーまでもが殺されそうになったとき、青い炎をまとった一人の少女が、戦場に舞い降りた。

 

 炎を操る超人たちの正体は、人間と地球外の高次元生命体との融合体です。生命体といっても実体を持つわけではなく、”高次幾何存在”というようです。そのような存在が超新星爆発に巻き込まれれて宇宙を漂流し、偶然たどり着いた地球で人間に憑依し、暴れているというのでした。次々と地球へ漂着する彼らを、ウォーボーグと、憑依されたものの人格の統合を免れた少女・ニーナが迎え撃つというのが、この物語の基本となります。

 高次幾何存在と融合した人間が操るのは炎だけではなく、「草原のサンタ・ムエルテ」ではまた違う能力を持った敵が登場します。

 

 私は『裏世界ピクニック』や『そいねドリーマ―』から宮澤伊織作品に触れたため、「宮澤伊織=百合SF」という先入観を持っていたのですが、ウォーボーグたちの装備や作中で登場する兵器の描写から、ミリタリ方面にも造詣の深い作家なのだと認識を改めました。最近刊行された「迷宮キングダム」のノベライズ*1も主人公は元英国陸軍特殊空挺部隊という設定です。

 また、「草原のサンタ・ムエルテ」では舞台が日本へと移りますが、作中の時代設定が2031年となっており、特段の理由なく外国名の県警職員が登場していたり、〇〇の農場で外国人労働者が働かされていたりと、現在とは異なる社会の様子が描写されています。

 一見して超能力バトルものの作品ですが、未来の技術や未来の社会が描かれている点で、まさにSF作品だなと感じました。