汗牛未充棟

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外国育ちで顔の良い女は銃器の扱いに長けがち――ツカサ『明日の世界で星は煌めく』

 文明が崩壊した後の世界。人気は途絶え、どこまでも続く広大な廃墟、もしくは荒野を二人ぼっちの少女たちが旅をする。

 「ポストアポカリプス百合」とでもいいましょうか、そういう類の作品が好きだなと、最近自覚しました。具体的には『少女終末旅行』や『ひとつ海のパラスアテナ』などです。『少女終末旅行』に比べて『ひとつ海のパラスアテナ』ではずいぶんと多くの人間が生き残っていますが、一たび出航すればアキとタカ以外には大海原が広がるばかりです。つまりは広大な世界と、二人”だけ”の少女というのが肝なのかもしれません。

 そして本作も由貴と帆乃夏の二人の少女(と使い魔のペラ)が、文明崩壊直後の人気の途絶えた世界を冒険します。人気はないといっても、”屍人”は街にあふれているのですが……。

 

明日の世界で星は煌めく (ガガガ文庫)

明日の世界で星は煌めく (ガガガ文庫)

  • 作者:ツカサ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: 文庫
 
 
〈あらすじ〉

 魔術師を自称する父を持ち、古い洋風の屋敷に住む南戸由貴(みなと ゆき)は幼い頃からいじめられていた。それは地元の高校に進学しても変わることはなく、由貴は思い足を引きずって始業式の始まる学校へ向かうが、その日世界は一変した。どこからか屍人が発生し、次々とクラスメイトや街の人々を襲っていくなか由貴を助けたのは、姿を消した父が遺した使い魔のペラと屋敷の周囲に張られた結界そして、魔法の杖だった。

 それから一か月、ひとり生き残った由貴は、小銃を手に屍人と戦う一人の少女と出会う。それはかつて半年間だけ同じ中学に在籍し、最期の一週間だけ友達になった榊帆乃夏(さかき ほのか)だった。再会を喜ぶのも束の間、帆乃夏はこの世界でまだ生きているかもしれない姉を探すため、再び旅立つという。由貴は「自分がどうしたいのか」、決断を迫られる。

 

・由貴と帆乃夏

 毎日いじめられようとも、逃げれば”負け”てしまうと、学校に通い続けた由貴。そして、クラスの空気に逆らって由貴と友達になり、由貴のことを「カッコいい」という帆乃夏。友人でありながらもその関係に甘えることなく、けじめをつけるべきはつけ、対等な関係でいようと互いに努力する関係性が印象的で素敵でした。

 姉を探している帆乃夏にとって、由貴の魔法は魅力的ですが、そもそも姉が生きているというのが随分希望的な観測でしかなく、帆乃夏は絶対に「危険な探索に協力してほしい」とは口にしません。由貴も姉を思う帆乃夏の気持ちは理解し、「諦めて一緒に暮らそう」とは言いません。しかし外の世界に恐怖し、「一緒に行く」と自ら言い出すこともできな由貴。帆乃夏と対等であるために彼女は何を選択するのでしょうか。

 

・四大の杖

 由貴の父親が彼女に遺した杖はその名を「四大の杖」といい、地水火風つまり個体、液体、熱量、気体を制御化において操ることができますが、個体から順に制御は難しくなります。

 最近ではファンタジー作品であっても、キャラクターの能力を数値化して明示する作品も増えたように思います。ゲームがベースとなっている世界観ならまだしも、ゲームとは関係ない世界観でステータス表示が出てくると、少し違和感を感じてしまいますが、キャラクターの成長を示すのにそれほど分かりやすいものもありませんね。

 由貴も旅を通じて成長すると思うのですが、その成長はどういった形で現れるのでしょうか。操れる対象の大きさや、持続時間が伸びるのかもしれません。「杖の新たな力が解放される」といった展開も熱いですね。

 ちなみに帆乃夏は自衛隊の基地で手に入れた小銃と拳銃を武器にします。海外で射撃場に行った経験があるそう。外国育ちで顔の良い女はだいたい銃器の扱いも手慣れてますね。

 

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)