汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

柴田勝家『スーサイドホーム』――サンリンボー、台湾の心霊写真、呪いの荷物、”家”に潜む呪いに「助葬師」が挑む。

 

 

 サンリンボー台湾の心霊写真呪いの荷物、それらの背後に潜むものとは。とある”家”にまつわる呪い「助葬師」が挑む。

 

 柴田勝家といえば、ハヤカワSFコンテストを『ニルヤの島』で受賞してデビュー。その後「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」と「アメリカン・ブッダ」で二度も星雲賞短編部門を受賞するなど、SFジャンルでの活躍が目覚ましい。

 しかし近年の作品に絞っても、短編集『アメリカン・ブッダ』に収録された「邪義の壁」や、復活後の異形コレクションに掲載された諸作など、ホラー短編も多く執筆している

 そもそも民俗学を専門に修めてきた柴田勝家、ホラーとの相性が悪いはずもないのである。本作では章ごとに変わる語り手が、とある”家”にまつわる様々な呪いに遭遇する

 

 第1章の語り手は、一軒家に父親と二人で暮らす引きこもりの男。同じ屋根の下で暮らしながら父親とは没交渉の状態が続いていたが、隣家の火事をきっかけに父親の態度が豹変してしまう。

 男に対して容赦なく暴力を振るう父親は、しきりにサンリンボー」と口にするがどういう意味なのか。ネットに助けを求めた男は、その筋の専門家だという「助葬師」にたどり着くが……。

 

 続く第2章は打って変わってオカルトライターの遠山が語り手。ネット上で活動する覆面霊能者「助葬師」に取材を申し込んだ遠山だったが、意外にも取材を許可される。そして取材当日、待ち合わせ場所に現れたのは羽野アキラと名乗る女子大生だった。

 この女性が本当にあの助葬師なのか。半信半疑の遠山は、羽野にとある写真を見せる。台湾で撮られたというその家族写真は、一見普通の写真に見えるが、見る人が見ると何やら恐ろしいものらしい。羽野を試そうとした遠山だったが、その写真を見た羽野は驚きの行動をとるのだった

 

 そして第3章は、とある動画配信者に依存する女子大生・古河まちかが語り手となる。

 ある日古河が一人暮らしの下宿に帰ると、送り主不明の汚い段ボール箱が宅配されていた。不快に思う古河だったが、ちょうどそのタイミングで推しの配信者が「呪いの荷物」について配信で取り上げていた。もしかしたらこれは推しと繋がれるチャンスかもしれない。

 呪いの荷物について調べようとする古河だったが、何かと反りの合わない同じゼミの学生・羽野アキラと、なぜか一緒に調査することになるのだった。

 

 これら3つの事件、一見関連性を感じさせないが、物語が進むにつれて少しずつリンクが見えてくる。その僅かなリンクが想像力を掻き立て、ページをめくる手が止まらない。一連の事件の背後にはいったい何が潜んでいるのだろうか。

 

 章ごとに語り手が変わる構成となっているが、実質的な主人公である助葬師・羽野アキラは、飄々とした口調でどこまで見透かしているのかわからない雰囲気が魅力的。個人的には古河まちかとのコンビがもっとみたいので、続編・シリーズ化に期待したい。