汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

怪獣夫婦の披露宴&新婚旅行――茅田砂胡『女王と海賊の披露宴 ――海賊と女王の航宙記』

 私が中学校の図書館で『デルフィニア戦記』に心を奪われてからはや十年。茅田砂胡の新刊が年三冊ペースで定期的に出ていたころは、発売日に新刊を買っていたのですが、最近は刊行時期もまちまちで発売に気づけないことも多く、本書を手に取るのも半月ほど遅れてしまいました。

 かつてのペースでの刊行はさすがに難しいとは思いますが、ふと気づいたときに、彼ら彼女らの新しい物語を読むことができれば、いちファンとしてこれほど嬉しいことはないと思います。

 

女王と海賊の披露宴-海賊と女王の航宙記 (C★NOVELS (か1-75))

女王と海賊の披露宴-海賊と女王の航宙記 (C★NOVELS (か1-75))

 

 

・「女王と海賊の披露宴」

 収録されている二話のうちひとつめは、「暁の天使たち」シリーズ以降のイラストを担当する鈴木理華の画集『鈴木理華画集――女王と海賊と天使たち』に収録された短編の再録となっています。この画集の発売が2011年とあって驚きました。発売時に手に取ったと思うのですが、計算すると当時私は高校生だったはず。画集を買うお金などどうやって捻出したのでしょうか。

 内容はジャスミン(女王)とケリー(海賊)が改めて披露宴を行おうというもの。この巻から興味を持って初めて読もうとする人なんて絶対いないので詳細は省きますが、終盤では「スカーレット・ウィザード」シリーズのラストエピソードについての思い出話が花開きました。

 私が「スカーレット・ウィザード」を読んだのも、もう十年は昔ですが、ヘレンやクラーク博士などの名前にはかすかに覚えがあって、とても懐かしかったです。もちろん実家に帰ればいつでも読み返せるのですが、一番感受性が強かった時期の読書体験はやはり特別なもののように思います。

 

・「女王と海賊の新婚旅行」

 もう一作は書下ろしとなっています。内容はケリーが披露宴に続いて、新婚旅行に行こうと言い出すもの。もちろんただの新婚旅行ではなく、豪華客船(もちろん宇宙船)のなかで秘密裏に開催されるオークションで、テオドールが欲しがっている皿を競り落としてくるというミッションつきです。簡単に終わると思われたミッションですが、そのオークションで想定外のものが出品され……、というお話。怪獣夫婦(もしくは天使たち)がトラブルに巻き込まれ、チンピラたちをなぎ倒すというお約束の展開です。

 読んでいて思い出したのですが、たぶん「スカーレット・ウィザード」の最後で、いつかケリーとジャスミン、そしてダイアナの3人で旅に出ようといった話をしていたと思います。それは跳んだことのない≪門≫を跳ぶための旅で、跳んでみたら辺境への一方通行の≪門≫で、中央へ帰ってこれなくなるかもしれない。これまではケリーと感応頭脳のダイアナの二人旅だったけれど、いつかジャスミンもいっしょに行こうというお話。読んだときにとても胸を打たれた記憶があります。

 思うに私は、愛しあう、もしくは信頼しあう二人が、ふたりぼっちで世界を旅するといったことに特大のエモを感じるようです。

 ……『少女終末旅行』、漫画も読むかな