汗牛未充棟

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目指せシリーズ化。スパチャしたくなる短編です!――宮澤伊織「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」

 

 というわけで、『裏世界ピクニック4』と『大絶滅恐竜タイムウォーズ』の発売日確保に失敗したクソ雑魚ウシのとろマルです。
 この辺の地域だとハヤカワ文庫はだいたい二、三日遅れで入荷するから、いつ入荷するか分かるようにe-hon使ったのに、普通に発売日に店頭に出ていた……。本を確実に買うためには、やっぱり店頭での予約が一番なのでしょう。(電子書籍なら発売日0時から読めますが、物理と電子で二冊買うほど富豪ではありません。)

 そんなわけで、様々な事情でまだ『裏世界ピクニック4』が読めない人たちに紹介したいのが、こちら「ときときチャンネル」です。こちらは以前に紹介した創元SF文庫の宇宙SFアンソロジー『宙を数える』に収録された一編ですが、電子版で個別に買えるようになっていたので、改めて取り上げたいと思います。

 

 220円で安い!とりあえず買っとけ

 

〈あらすじ〉

 生活費の足しにするため、動画配信を始めた十時さくら。中学生のような見た目だが実は社会人で、稼ぎも一応あるのだが、ルームシェアの相手である”天才”科学者・多田羅未貴にあまりにも生活力がないため、もうちょっとお金がほしいのだという。
 配信内容は、多田羅の研究や発明を紹介するというもの。配信第1回で多田羅が出してきたのは、ひとつのマグカップ。そこには宇宙が入っているのだという。さくらは宇宙の”食レポ”に挑戦するのだが……。

 

・動画配信百合”SF”

 宇宙をマグカップに注ぐ方法について、多田羅は≪インターネット3≫でレシピを見たと説明しています。多田羅曰く、超越的な知性が利用している高次のネットワークを無理やり覗いているそうです。

 今回のように、多田羅が≪インターネット3≫からネタを見つけてきて、さくらが配信するというフォーマットが決まってしまえば、連載もしやすいと思うので、ぜひシリーズ化してほしいところです。掲載メディアの問題もある気がしますが、個人的には不定期に1話ごと電子版で配信してもらえればいいかなと思います。なんなら値段をもう少し上げてもいいのではないでしょうか。

 ときときチャンネルにスパチャ投げたい!

 

・動画配信”百合”SF

 「十時さくら」はデジタルのキャラクターではなく、生身で配信している設定ですが、動画内のさくらと多田羅の関係性はVtuberの関係性を感じさせます。俗に”てぇてぇ”などと呼ばれる関係性が、ここに完全再現されているのです。

 ”てぇてぇ”の言語化は私もまだ上手くできないのですが、会話のなかから、配信では見せない日常の姿や、言葉には表わさない相手への感情が読み取れるとき、というのがひとつあると思います。それが本作では例えば、配信中は基本「多田羅さん」呼びなのに、焦った時だけ「未貴ちゃん」呼びになっていたり、多田羅の説明が難解でさくらが理解できずに拗ねるといったところから読み取れるような気がします。

 個人的には多田羅と同じ目線でものを見たいさくらと、考え方の共有はできないと一線を引くような多田羅のすれ違いが良かったです。

 

 ちなみに、さくらの多田羅に対する「年上の女」という言い回しとか、年下のさくらの方が多田羅の世話をしているところとか、いろいろな点でさくらと多田羅ではない別の二人を幻視してしまうのですが、そういう読み方をしていいのかどうか……。
 多田羅の「だいぶ拡張されたな、食レポの概念」って突っ込みとか、それっぽいなあ!

 

 「ときときチャンネル」も収録された宇宙SFアンソロジー『宙を数える』は「ときときチャンネル」の他にも傑作ぞろいなので、合わせておすすめです。

 

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