世界を舞台に正崎は、曲瀬は、何を為せるのか――野﨑まど『バビロンⅢー終ー』
タイトルに「終」って入っていたら普通完結すると思うじゃないですか!?そういうつもりで読んでいたのでラストに驚きました。
確かに、どこにも完結とは書かれてないな……。
<あらすじ>
日本の〈新域〉で自殺法が施行されて以降、カナダのハリファックス、フランスのグルノーブルと世界各地の都市が自殺法を導入していた。ついにはアメリカ国内、コネチカット州ハートフォードでも自殺法の導入が宣言された。対応に苦悩する合衆国大統領にFBI特殊分析課からもたらされたのは、自殺法の裏で暗躍するある女性についての報告だった。詳細を求める大統領の前に、一人の男が現れる。
そして開催されるG7。果たして世界は自殺法を、そして”最悪の女”曲瀬愛を止めることができるのか。
・テーマの拡張
1巻では選挙の不正を追う政治サスペンスが描かれ、2巻では斎や曲瀬に対する物理的な追跡のほかに、自殺法の制定を罪に問えるのかという、法の問題が描かれました。
そしてこの3巻で、舞台はアメリカ政府へと移ります。ホワイトハウスを中心に、各国との外交や、首脳会談が描かれました。1巻が選挙の不正とそれを追う検事の物語だったことにも驚きましたが、巻を重ねるにつれ、物語の舞台や規模を意図的に大きくしているように思います。
ここまでくると次はいよいよ宇宙規模でしょうか。思い返すとメディアワークス文庫での『[映]アムリタ』から始まる一連のシリーズでも宇宙人は出なかったように思います。曲瀬愛の異能は宇宙人にも通用するのでしょうか。ここまでくると対抗できるのはもう最原最早しかいないのではないかと思いますが……。
・正義とは何か
3巻での実質的主人公である合衆国大統領アレキサンダー・W・ウッドは、拙速な判断を良しとせず、納得いくまで考え続けるため、「考える人(The thinker)」とあだ名されています。なかなか結論がでないため運営上の不都合が多いですが、そこは首席補佐官ら周囲のスタッフがサポートするよいチームとなっています。
そんなアレキサンダーが正崎と対話する場面があります。FBIに危ういバランスと評された正崎ですが、アレキサンダーの対話を経て、1巻のときは持っていたはずの「正義とはなにか」という問いの答えに立ち返ったようでした。
・最悪の女
あの手この手を使って「自殺法」を世界に浸透させようとする新域域長・斎開化ですが、その一方すべての主犯と目される曲瀬愛は、どうも「自殺法」自体を重要視しているわけではないようです。「終わるのが好きだと」語る曲瀬は(アレキサンダーが最後にたどり着いた結論を踏まえると)本当に最悪の存在でした。