汗牛未充棟

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時雨沢恵一『レイの世界 -Re:I- 1 Another World Tour』――”ⅡⅤ”発!すこし ふしぎ なアイドル活動【レビュー】

 時雨沢恵一黒星紅白という鉄板コンビの新作『レイの世界』は”ⅡⅤ”が手掛ける初の紙書籍として刊行されました。ですがそもそも、”ⅡⅤ”とはいったい何なのでしょうか。

 

レイの世界 ―Re:I― 1 Another World Tour

レイの世界 ―Re:I― 1 Another World Tour

 

 

 

”ⅡⅤ”ってなに?

 ”ⅡⅤ”(トゥー・ファイブ)とは、2018年に生まれたドワンゴ発のオリジナルIPブランドです。所属クリエイターとして、時雨沢恵一成田良悟蒼山サグといった電撃文庫の作家陣が名を連ねていますが、”ⅡⅤ”は小説だけでなく、様々なメディアの作品を手掛けています。

 例えば、成田良悟の原作で「虫籠の錠前*1」という実写ドラマがWOWOWで放送されました。また、SUNTORYの公式バーチャルYouTuberの「燦鳥ノム*2」も”ⅡⅤ”でプロデュースしています。さらに、「神神化身*3」というメディアミックスプロジェクトでは、小説の担当に斜線堂有紀を迎え、楽曲面では二つのチームが動画の再生数を競い合うといった試みも行っていたようです。

 もちろん小説も手掛けていて、これまでは電子版のみの刊行でしたが、この度いわゆる新文芸のサイズで”ⅡⅤ”ブランド初の紙書籍が発売されました。一作はこの時雨沢恵一&黒星紅白の『レイの世界』で、もう一作はお笑い芸人インパルス板倉俊之による『鬼の御伽』です。レーベル第1弾のラインナップとして、相当気合いが入っていると言えるのではないでしょうか。

 様々なメディアでコンテンツを打ち出しているものの、 いまだに大きなヒット作を出せていないように思える”ⅡⅤ”ですが、この新レーベルから大きなヒット作を生み出せるのか注目です。

 

『レイの世界』あらすじ

 主人公のユキノ・レイは、とある小さな芸能事務所に所属する新人アイドルです。女優と歌手を目指してレッスンをしていますが、まだまだ駆け出し。そんな彼女のもとに、マネージャーがステージや演技といった仕事を持ってきます。それぞれの仕事は、地方のお祭りの小さなステージだったり、とある映画の端役だったりと、新人アイドルらしい内容です。しかしそのどれもが、少し様子がおかしかったり、異様な状況で行われるのでした。

 この1巻は6編のショートストーリーで構成されており、それぞれの物語は事務所から始まって、仕事現場に行き、また事務所に帰ってくるという展開がお約束になっています。一種寓話的な雰囲気も含めて、読み心地は『キノの旅』と似た感じでしょうか。

 また一編ずつは短いながら、どのストーリーにもちょっとした仕掛けが施されているところに、ベテランの技を感じさせます。特に第四話は秀逸でした。仕事内容は巨匠監督の映画の撮影で、時間にすれば数分の演技なのですが、とある事情でその役はレイにしかできないと言われます。慣れないながらも撮影をきっちりこなしたレイですが、あとになって監督の真意を聞いて驚くのでした。余談ですが、この作中作の映画、あらすじがとても面白そうで、ぜひ観てみたくなります。

 

ユキノ・レイの魅力

 新人アイドル、ユキノ・レイのキャラクターも本作の大きな魅力です。オリジナルソングもない新人ではありますが、そんな彼女の強みは体と心のタフネスです。

 何十曲だろうと歌って踊り続けるのどの強さと底なしの体力が、体のタフネス。そして、誰も彼女のことを知らない、歌っても反応がないという完全にアウェイの状況でも、折れることなくステージに立ち続けることができる強さが心のタフネスです。しかし、そんな彼女にも秘密があるようで、続刊が楽しみです。

 

 電子書籍であれば2話ずつの購入もできるようなので、気になった方は気軽に読んでみてはいかがでしょうか。