汗牛未充棟

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ロケット商会『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』――勇者=大罪人、どこか憎めないクズたちの奮戦が熱い!

 

 

 『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』は、とある大罪を犯して”懲罰勇者”となった主人公のザイロが、剣の《女神》テオリッタや仲間の懲罰勇者たちとともに、”魔王現象”と戦うファンタジー作品。同題でカクヨムに連載されており、「電撃の新文芸」からの書籍化作品となる。著者のロケット商会は、他にも『勇者のクズ』という小説を同じくカクヨムに掲載しており、こちらはナカシマ723による自主コミカライズが話題となった*1

 『勇者刑に処す』の物語は、人類の生存圏の北辺「クヴンジ森林」から始まる。周囲のあらゆるものを異形と化す魔王現象。その魔王現象から撤退する聖騎士団の支援という任務(=刑務)を受けた懲罰勇者のザイロとドッタだったが、その待機中にドッタが聖騎士団から棺桶を盗んできてしまう。

 その棺桶に眠っていたのが剣の《女神》テオリッタだった。起動したテオリッタとザイロがやむを得ず契約してしまったことにより、物語の幕が上がる。

 ところでザイロたち懲罰勇者とは、いったいどんな存在なのだろうか。勇者と名付けられているものの、要は犯罪者たちの集団である。史上最悪のコソ泥、詐欺師の政治犯、自称・国王のテロリストなどなど、大罪を犯したものは勇者刑に処され、首筋に『聖印』を刻まれる。

 そうして懲罰勇者となった罪人は、魔王現象の最前線で戦わされることになるのだ。しかも命を落としても強制的に復活させられるため、死んで解放されるといったこともない。

 普通、魔王に挑むといったような勇気を示した者を勇者と呼ぶが、彼らは逆説的に、魔王に挑まされるから勇者と呼ばれるのだ。強制的な復活も、HPがゼロになっても教会で復活できるという、一般的なゲームの勇者象から抽出された要素だろう。「勇者」という概念の再定義が面白い

 もう一つ、物語のキーとなる存在が《女神》だ。《女神》とは遥か昔の大文明が遺した、魔王現象に対抗するための生体兵器であり、個体ごとに様々な機能を持つ。《女神》の数は全部で12体とされていたが、新たに13番目の《女神》、テオリッタが発見されたことで波乱が巻き起こるのだった。

 《女神》はその機能故に人々の崇拝の対象になっている。死刑囚にすら見下される懲罰勇者たちとは正反対の存在にも思えるが、そこにはとある共通点が存在する。

 《女神》たちは、時に自分を犠牲にしてでも、魔王現象から人間を守るために力を奮う。しかしそれは、人間に褒められることに最大の価値を見出すように作られた故の行動なのだ。懲罰勇者と《女神》は、一方は軽蔑され、一方は尊敬を集めながら、人間が魔王現象に対抗するために使いつぶされる存在であるという点で共通している。

 それゆえにザイロは、テオリッタの「誰かのために死んでもいい」という態度を嫌うのだ。そんな正反対でありながら同じ境遇にあるザイロとテオリッタが契約によって結ばれ、どのような生き方を選んでいくのか、というのが1巻の肝となっている。

 また、ザイロとテオリッタだけでなく、懲罰勇者隊の仲間たちもまた魅力的だ。彼らも基本的にはクズな勇者ではあるのだが、性格がクズというよりは、生まれ持った性質がどうやっても社会に適合しないというだけで、犯罪者でありながらどこか愛嬌を感じさせるキャラクターばかりである。1巻ではまだ登場していない懲罰勇者もおり、続刊が待ち遠しい。