汗牛未充棟

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ロケット商会『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録 Ⅱ』――遂に集結した懲罰勇者たち、街を飲み込む謀略に挑む!

 

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 とある大罪を犯して”懲罰勇者”となった主人公のザイロが、剣の《女神》テオリッタや仲間の懲罰勇者たちとともに、”魔王現象”と戦うファンタジー小説『勇者刑に処す』。2巻では連合王国随一の港湾都市であるヨーフ市を舞台に、テオリッタを狙って謀略が巻き起こる。

 前回、テオリッタが召喚した聖剣の力で不死身の魔王現象『イブリス』を消滅させたザイロたち。ヨーフ市にて傷を回復させていたが、そこに神殿のとある一派がテオリッタの命を狙っているという情報が入る。懲罰勇者隊は刺客たちを迎え撃つが、どうやら敵は普通の相手ではないらしい。敵の正体を探るため、ザイロはお目付け役である第十三聖騎士団長のパトゥーシェとともに、冒険者ギルドに潜入する。やがて事件はヨーフ市全体を巻き込むほどの禍いを招くのだった。

 今回の見どころは、まずは何といっても懲罰勇者9004隊の集結だろう。前回は別行動をしていた竜騎兵ジェイス、そして砲兵ライノーが合流し、大幅に戦力が強化された懲罰勇者隊は、異形の軍勢に対しより大規模かつ戦略的な戦いを繰り広げる。

 また今回からは対人戦闘も始まる。それぞれ独自の聖印兵器を使う刺客たちに対して、テオリッタは人間を相手に剣を召喚して戦うことはできない。そんなテオリッタを守りながらザイロたちはどう戦っていくのかも見どころの一つだ。

 そしてヨーフ市を舞台にした攻防戦の終盤には、とある衝撃的な展開が待ち受ける。また「勇者」とはいったい何であるのか、その秘密も一部明かされる。様々な状況も整ってきて、ここからが『勇者刑』の本番といったところだろうか。3巻も楽しみだ。

 

 ※以下ネタバレを含む感想。

 

 


 敵味方を問わず多くの新キャラクターが登場した。味方側ではジェイスとライノーはもちろんのこと、ザイロの婚約者にして南方夜鬼という民族の首領の娘であるフレンシィが本格的に登場した。人間に擬態する魔王現象『スプリガン』を追っているとのことだが、ザイロを巡ってパトゥーシェとはバチバチの雰囲気。果たして南方夜鬼と第十三聖騎士団の協調はあるのだろうか。

 敵サイドには金次第で荒事も引き受ける冒険者のシジ・バウや鉄鯨、そんな冒険者に仕事を斡旋するギルドの長リデオ・ソドリックなどが登場した。そんな新キャラたちの中で個人的には、シジ・バウとともに雇われた冒険者のブージャムがお気に入りだった。冒険者らしからぬ生真面目さと、もはや浮世離れした印象を受けるテンポのずれた応答は、どこか愛嬌すら感じさせる。……ような気がする。そんなブージャムだが、彼の存在は終盤の大ネタに向けて、大きく機能していたのではないか。

 フレンシィから人間に化ける魔王現象『スプリガン』の存在を聞いたザイロたち。その後に会敵したブージャムは、ドラゴンの炎に焼かれながらも肉体を再生させ撤退した。当然彼が『スプリガン』なのではないかと疑う。実際には『スプリガン』ではなかったわけだが、彼もまた人の形をとる魔王現象であることが読者に明かされる。

 そしてその後に満を持してライノーが登場する。「困っている人を見捨てられない」「全人類のために戦う」などとそれこそ勇者のような言葉を口にするライノーだが、あまりにも胡散臭くて、どこか普通の人間とはずれたもの感じさせる。ここで読者だけが唯一「このずれた感じ、さっきも見たぞ」となるわけだ。「もしかしてライノーも……」という疑いは徐々に高まっていき、遂にその正体が読者にだけ明かされる。案の定ではあるのだけれど、同時に明かされたライノーの真の罪状のインパクトが大きく、とても印象的な場面になっていた。

 そして物語は最後にパトゥーシェが勇者刑に処されて終わる。この展開はあるとは思っていたが、こんなに早く来るとは思っていなくて驚いた。しばらく暗躍すると思っていた『スプリガン』やマーレン・キヴィアも退場し、今後はどう展開していくのか。カクヨムで読んでしまうのもいいけれど、ここはぜひ3巻の発売を心待ちにしたい。