汗牛未充棟

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森ミスの原点たる事件、その再演――森博嗣『キャサリンはどのように子供を産んだのか?』

 科学の発展によって不老不死を得た代わりに生殖能力を失った人類と、人間によって造られた”ウォーカロン"(いわゆるアンドロイド)、そして人工知能が共存する近未来世界を描いたWシリーズ。その続編となるWWシリーズ第三作が本書『キャサリンはどのように子供を産んだのか?』となります。

 

 

○あらすじ

 生来の病気により、研究所の無菌ドームの中で暮らしていた生体学者、キャサリン・クーパ。国家反逆罪に問われているキャサリンのもとに検察職員など八人が訪問したところ、その八人とともにキャサリンが半ば密室状態の研究所から姿を消したという。ドイツの情報局から協力を求められた楽器職人のグアトは、研究所を管理する人工知能・ゾフィと話すために研究所を訪れる。果たしてゾフィは何を告げるのか。
 さらにキャサリン博士は無菌ドームの中で出産していたことも判明する。明らかになる過去の”とある事件”との関連性。果たして”彼女”もこの事件に関わっているのだろうか。

 

○”原点”の再演

 研究所に事実上監禁された女性科学者、密室状態での殺人(失踪)事件、研究所内での出産の事実、研究所を管理するシステム(人工知能)などなど、これだけの要素が積み重なれば、当然「あの事件*1」を思い浮かぶことでしょう。
 もちろん、人工知能などの技術が発展した未来の世界での事件として、作者自身の手で真相が翻案されています。似たような状況の中で、逆にいったい何が”あのとき”と違うのかが、本作の肝であり、注目ポイントです。

 

○SF作家としての森博嗣

 ミステリー作家としてキャリアをスタートした森博嗣の著作は、やはりミステリー作品や現代を舞台にしたものが多い印象です。(もちろん『ヴォイド・シェイパ』シリーズや『スカイ・クロラ』シリーズなど、それ以外のものも多いですが。)しかし、最近刊行が続いているWシリーズおよびWWシリーズは、舞台を二百年ほど未来の世界に移し、SF要素も強くなっています。
 テーマとしてはウォーカロン(アンドロイド)や人工知能などの「新しい知性」の姿や、それによって形作られる社会のあり方でしょうか。W(W)シリーズでは、人間には関知干渉のできない領域で人工知能同士の勢力争いが繰り広げられていることが、常に示唆されています。本作ではさらに、電子世界の生命体に新しい可能性が示されました。
 こうなってくると、SF界隈からの森博嗣の評価も気になります。とはいえ、W(W)シリーズだけで既に十三作目 、しかも過去のシリーズとの繋がりもあるとなると、新規読者のハードルは年々高くなっていると言えるかもしれません。

 

<前作>

miniwiz07.hatenablog.com