汗牛未充棟

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『タイタン』野﨑まど――「バビロン」「HELLO WORLD」の野﨑まど、<仕事>を巡る最新SF

 

 野﨑まどの新作のテーマは「仕事とは何か」。ありふれた問いのようでありながら、その実答えようと思うと言葉に詰まってしまうテーマですが、本作では心理学者の主人公と人工知能とのカウンセリングを通して、その問いの答えを導きます。

 

タイタン

タイタン

 

 

 舞台となるのは今から200年ほど未来の世界。人口知能の技術が発達し、すべての労働を人工知能タイタンとそこに接続した機械が行うようになった結果、ほとんどあらゆる「仕事」がなくなりました。さらには、素材の革命と、人間よりも効率的なタイタンの働きによって生産のスピードが消費に追いついたことで、貨幣経済すらもなくなり、ショッピング(買い物)の言葉はコレクト(収集)に置き換わっていきました。

 そんな世の中でもなくならずに残っている仕事があります。それが人工知能タイタンの管理に関わる仕事です。趣味で心理学を学んでいた主人公の内匠成果(野﨑まど作品には珍しく女性主人公です)は、まさにその仕事にスカウトされてしまいます。与えられたミッションは人工知能のカウンセリング。

 世界12か所に存在するタイタンの知能拠点のうち、日本にある第二知能拠点・コイオスの謎の機能低下の原因を探るため、成果は管理責任者のナレイン、研究者のベックマン、エンジニアの雷祐根(レイ ウグン)とともに、コイオスの人格化、そして彼との対話に挑みます。

 

 仕事から解放された人間、そんな世界でも仕事を続けている人間、そして人間のために仕事をしている人工知能。この三者が集まって、仕事とはなにかを探っていきます。

 

 導入としてはここまで。ここから物語はどんどん展開していきます。未読の方にはネタバレなしで読んでいただきたいところですが、もし読むかどうか悩んでいて、ネタバレはあまり気にしないよという方は、以下に最大のおすすめポイントを書きましたので、そちらをご覧ください。

 

 

 

 

~~~以下、ネタバレ~~~

 

 

 

 

 


 本書の第一部は知能拠点におけるタイタン・コイオスの人格形成とカウンセリングがメインとなります。人格形成実験の結果、幼い少年のアバターを獲得したコイオスですが、いろいろあってメインフレームごと、日本からアメリカ西海岸まで移動することになります。

 そしてここが最大のおすすめポイントなのですが、そこから「おねショタロードムービー」が始まるのです!

 演算能力は高くても、人格としてはまだまだ幼いコイウス。そして先生としてコイウスに接するものの、自身も仕事をした経験もなければ、家事炊事もタイタン任せだった内匠成果。太平洋沿岸を旅しながら、コイウスと成果は料理に挑戦してみたり、タイタンが普及していない土地を探検してみたりしながら、互いに成長していきます。目的地につくまでの短い期間でたくさんの楽しい思い出をつくろうとする二人の姿と、それらを経験したからこそたどり着いた答えが胸に響きます。

 

 そしてこの物語は、終盤になってさらに大転回します。野﨑まどのストーリーテリングに翻弄されながら、成果とコイウスの関係性を堪能してください。

 

miniwiz07.hatenablog.com

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