汗牛未充棟

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選挙の不正と不審な自殺の謎を追え!絶望の政治サスペンス――野﨑まど『バビロンⅠ―女―』

 2019年の秋クールでアニメも放送している野﨑まどの『バビロン』。アニメ放送前に原作を読んで、「へぇ、バビロンアニメ化したんだ。なかなか挑戦的だね」とかなんとか言おうとしたのですが、そんな町田さわ子的読書にも失敗し、今になってようやく読むことができました。
 読み終わったいま、つくづく「よくアニメ化企画通ったな」と思います。

 

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

 

 

〈あらすじ〉
 製薬会社と大学の不正な癒着を調査していた東京地検特捜部検事の正崎善は、その過程で不審な自殺死体を発見する。調査を続けていく正崎は、”新域”という新たな行政区の域長選挙に関わる不正の匂いを嗅ぎつける。票田の見返りに権力者に差し出される女性の存在を知った正崎たちは、彼女を救おうとするが、その女性こそ”最悪”の存在であったのだった。

 

 俗に言う「アムリタから2まで」を読んだ直後に『バビロン』を手に取った私にとって、まず舞台設定や作品ジャンルが意外なものでした。メディアワークス文庫での作品の主人公は大学生や大学を卒業したばかりの若者が多く、等身大なキャラクターたちでした。しかし本作の主人公は三十過ぎの特捜部の検事であり、内容も選挙の不正とそれにまつわる不審な自殺を追う政治サスペンスとなっています。もちろん無理して固いテーマに挑んでいるという印象は全くなく、著者の創作範囲の広がりを感じました。

 

 また主人公の周りのキャラクター配置について、メディアワークス文庫でのシリーズでは、まず主人公とヒロインがいて、その周囲を女性の脇役が固め、男性の親友キャラが一人いるという、ラノベ的な配置が基本だっとように思います。(ラノベ的というのは私個人の偏見によるものです。美少女ゲーム的といった方が近いかもしれません。)

 『バビロン』においても昔なじみの新聞記者がいたり、夕食に粘土のパンを出してくるタイプの奥さんがいたりと、これまでの作品と似たような配置のキャラクターもいますが、これまでと大きく異なるのは、登場人物がほとんど男性という点です。残念ながら日本の政治界隈はいまだ男社会であるため、性別が偏るのも自然と言えば自然ですが、だからこそ事件の関係者の中で唯一女性である”彼女”の存在が引き立ちます。

 

 ここまで過去作品との違いについて考えてみましたが、反対に変わらないものといえば、ヒロインの”ヤバさ”でしょう。最原最早をはじめ、普通でないというか明らかに逸脱しているヒロインを数多く生み出した野﨑まどですが、今回のヒロインもトップクラスに逸脱しています。

 正崎善という名前の通り、正義を信奉する主人公に対して、彼女は何を突き付けるのでしょうか。そしてこの1巻の最後に誕生するとある法律が、物語を新たなステージへと引き上げていくのです。