汗牛未充棟

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”この世で一番面白い小説”ってどんな小説?――野﨑まど『小説家の作り方 新装版』

 メディアワークス文庫から刊行された野﨑まど作品の新装版シリーズ第4弾は『小説家の作り方』。作品制作がテーマという点では『[映]アムリタ』を思い出させるが、天才が制作を主導していた前作とは違い、今回はド素人に作り方を教えるという物語になっている。

 

小説家の作り方 新装版 (メディアワークス文庫)

小説家の作り方 新装版 (メディアワークス文庫)

 

 

(表紙イラストはもちろん森井しづきだが、なぜだかこのイラストにだけpakoみを感じる。)

 

〈あらすじ〉
 大学在学時にファンタジー小説で賞をとった物実は、卒業後も塾講師のアルバイトを続けながら兼業作家として活動していた。そんな物実が作家三年目にして初めてもらったファンレター。差出人である紫依代とやり取りを続けるうちに、物実は一つの依頼を受ける。それは「”この世で一番面白い小説”のアイデアを思いついたので、小説の書き方を教えてほしい」というものだった。こうしてマンツーマンの小説講座が始まる。はたして”この世で一番面白い小説”は完成するのだろうか。

 

 今回の物語のキーワードとなるのは、やはり”この世で一番面白い小説”だろう。前作までの「よきもの」や「死なない生徒」のように、それが存在するのかという謎が物語をけん引する。そして例によって曰くつきのヒロインの秘密が、その謎に関わってくるのであった。

 


以下、ネタバレを含みます。

 

 


 過去のヒロインを振り返ってみると、人知を超えた天才に、妖怪、そして都市伝説じみた不死者と錚々たる面子が並んでおり、そして今回はシンギュラリティなんて軽々と越えていそうな人工知能である。人外属性勢ぞろいという感じだが、もちろん意図してのことなのだろう。次は宇宙人とかだろうか。

 

 作中の小ネタについてひとつ。物見が紫を学際に連れて行く場面。無軌道な展開とノリのいい会話に笑いながら読んだが、最後に集まったメンバーを見ると、紫に加えてブリキのバケツをかぶった物実に、ライオンのきぐるみ、全身鳥よけスタイルと、オズの魔法使いになっている。作中で比喩表現についてのレクチャーがあったので、その実践編ということかもしれない。
 また、一見バケツをかぶった物実がブリキのきこりに見えるが、心を欲しがっていたのは本当は誰なのか、という話かもしれない。そうでないかもしれない。

 

 きっと他にも仕込まれていることはいろいろとあるのだろう。ついついページを進めることばかり意識して浅い読書になってしまっている自覚はあるので、気になった点では立ちどまれるようにしたい。