汗牛未充棟

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戴国の動乱遂に終結......か⁉――小野不由美『白銀の墟 玄の月(三),(四) 十二国記』

 十二国記シリーズに先駆けて発表された『魔性の子』は現代を舞台にしたホラーでありながら、実質泰麒の物語であった。その後の十二国記シリーズ一作目『月の影 影の海』では既に戴国の政情不安が語られていた。そして二作目『風の海 迷宮の岸』では、少し時間が巻き戻って泰麒の誕生と驍宗との出会いが語られた。思い返してみると、泰麒と驍宗の物語こそ、十二国記シリーズを貫くひとつの軸となっていたように思える。
 その泰麒と驍宗の物語も遂にここでひとつの結末を得る。いや、真に結末にたどり着いたと言えるかどうかは、実際に読み終わった人たちの判断に委ねられるだろう。

 

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

 
白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

 

 

〈あらすじ〉 

 驍宗の足跡を追い、ようやくたどり着いた老安の地で、驍宗らしき人物が既に死んでしまっていたことを知らされる李斎たち。失意に沈む一行だったが、果たして老安で死んだのは本当に驍宗であったのか。
 一方民の救済を優先しようと偽王阿選の統べる白桂宮に戻った泰麒だったが、なかなか実権を得ることができない。王宮の奥に閉じこもって出てこない阿選と直接対峙するため、泰麒は王宮深部への侵入を試みるのであった。

 

 一,二巻の感想で、十二国記シリーズでは集団戦が描かれることはあまりないようだと書いたが、ここに来て阿選の掌握する王師軍・州師軍と、反乱軍との衝突が描かれた。反乱軍といっても各勢力の寄せ集めでしかないのだが、それこそ三巻分をかけて各地を駆けずり回った李斎たちの行動の結果であり、熱いものを感じると同時に、その最後にとても苦しい思いも感じてしまう。
 命を賭して戦い抜き、希望を未来につなぐという戦場のドラマが存分に描かれていた。そして舞台を白桂宮へと移し、最後の一幕が上がるのである、が......。

 

 

 以下、ネタバレを含みます。

 

 

 まあ、収まりきっていないのであった。三巻を読み終わったあたりから「大丈夫かな」と思っていたが、四巻ラストはダイジェストという感じだった。前半の捜索パートをもっと短くすればと思わないこともないが、その長い捜索と仲間集めがあったからこそ、それが崩壊する時のカタルシスにつながっているのだろう。今後短編集が出るそうなので、そちらで補完されることを期待して待ちたい。

 今回省略された部分で、保管してほしいところをいろいろと考えてみる。

 まずは項梁について。正頼に託されて王宮を脱出したあと、どのようにして英章や臥信と遭遇したのか。国帑はどのようにして隠されていたのか。本編では丸々カットされてしまったが、一波乱あったのではないだろうか。

 また個人的に気になるのは李斎と花影の再会の場面である。『黄昏の岸 暁の天』を読み直したときから、この二人の再会の場面は激エモ間違いなしと思っていたのに、まさかの地の文で片付けられてしまって残念だった。

 琅燦については戴国の行く末よりも、天の理を解き明かすことに興味があるようだった。彼女の真意について語られることはなかったが、それが語られる時は新たな長編が始まるときではないかという気がする。

 そして外すことができないのは、阿選の最期だろう。今回の騒動の主犯であり、自身が驍宗の影になってしまうことを何より怖れた阿選が、最期のときに何を思うのか。後悔するのか、何らかの納得を得るのか。それが書かれることでようやく、今回の物語の区切りとなるように思う。

 ただ何より読者が求めているのは、驍宗と泰麒がかつてのように仲間に囲まれて平和を謳歌することだろう。願わくは彼らが主従が二度と引き裂かれないことを。