汗牛未充棟

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新装版第3弾は学園ミステリ!――野﨑まど『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~ 新装版』

 メディアワークス文庫から刊行された野﨑まど作品の新装版シリーズ第3弾は学園ミステリ『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~ 新装版』。奥付を見ると初版となっていて、新装版は旧バージョンとは別の作品としてカウントされるんだなと、今更なことを認識した。

 

 

 理科の教員として幼小中高一貫のマンモス女子高に赴任した伊藤は、早々に「この学校には、永遠の命を持つ生徒がいる」という怪しげな噂を耳にする。学校の怪談程度に考えていた伊藤だが、そんな彼の前に二人の生徒が現れる。伊藤が副担任を務めるA組の転校生・天名珠はその死なない生徒と友達になりたいと伊藤に相談し、D組の識別組子は自分がその死なない生徒だと主張した。
 しかしほどなくして不死を自称する識別組子が死体となって発見される。しかも彼女の遺体は首が切られていた。動揺する伊藤と天名の前に、さらに新たな少女が登場する。
 誰がなぜ識別組子を殺したのか。そして永遠の命の正体とはいったい。

 

 『[映]アムリタ』で部活(サークル)ものを、『舞面真面とお面の女』で伝奇ミステリを書いた次は学園ミステリであった。ミステリという意味では前作とかぶっているようにも見えるが、遺言の謎解きがメインの「死なないミステリ」だった前作に対して、本作では死人が出ており、犯人や動機を探る物語となっている。

 恐らく意識的に様々なジャンルで作品を書いているのだろう。そしてそのどれもでジャンルの王道とはずれた位置に着地点を作っているように感じる。そのズレこそが野﨑まどの(少なくとも初期作品の)魅力なのかもしれない。

 

 

 以下、ネタバレ含む。

 

 

 『[映]アムリタ』では現実的ではないもののギリギリ理屈の通ったロジックで異能を表現し、『舞面真面とお面の女』では超常の存在を登場させた。続く本作はその中間といったところだろうか。中間というか両方である。これで以降の作品で超常の力を持ったキャラクターが登場しても、その力に理屈が存在するのか、それともそういった背景を持たない妖怪や魔物の類なのかわからなくなってしまった。

 一見どちらでも同じことに思えるが、両者のすみ分けは世界観を壊さないために重要なことではないだろうか。野﨑まど作品の世界が今後どうなっていくのかとても楽しみだ。