汗牛未充棟

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聖杯戦争”後”の世界を描くFateスピンオフの最新作!――星空めてお『Fate/Requiem 1 星巡る少年』

<2020/5/25 19:55 追記>

 ただいま本編全てを無料公開中とのこと。要チェックです!

web-ace.jp

 

 

 2018年末にTYPE-MOON BOOKSより発売された、fateシリーズの新たなスピンオフ作品。アプリゲーム「Fate/GrandOrder」にもシナリオライターとして参加する星空めておが筆を執っている。

 

 

 これまでにもfateシリーズには二つの陣営に分かれて戦う聖杯大戦や、偽物の聖杯戦争、月の聖杯戦争など様々な形の聖杯戦争を描いたスピンオフ作品があったが、それらと較べた時の本作の最大の特徴は聖杯戦争が終ったあとの物語であるという点だろう。戦争が終わり平和になったこの世界で、人々は心臓に一つずつ小さな聖杯を持ち、不老不死を得た。そしてその聖杯によって、魔術師でない者も誰もが一騎ずつ自分の運命のサーヴァントを召喚し、共に暮らしている。

 

 そんな世界の中でただ一人、主人公・宇津見エリセは聖杯を持たず、不老不死でもなければ契約したサーヴァントもいない。その一方でサーヴァントに対し有効なとある能力を持つエリセは、町に敵対的なサーヴァントを排除することを生業とし、”死神”と呼ばれていた。そしてとある仕事の途中で瀕死の重傷を負ったエリセは「運命」と出会う。それはエリセの≪聖杯戦争≫の始まりであった。

 

 繰り返すが聖杯戦争後の物語であるため、fateシリーズには珍しく普通に日常生活を送るサーヴァントの姿も見ることができる。もちろん多くのサーヴァントは霊体化しているが、コロシアムで英霊同士戦う血気盛んなサーヴァントもいれば、ホテル経営の傍ら情報屋稼業に勤しむ英霊もいる。

 

 それらの英霊の中には「得意料理はキュケオーン」なとある大魔女や、オタク文化に染まった大海賊などFGOでもお馴染みのサーヴァントもいるが、誰もがサーヴァントと契約しているという設定上、マイナーなサーヴァントも数多く登場する。エリセの親友カリンのサーヴァントも鬼女紅葉という信州に伝わる伝承の人物であるが、私は長野県に住みながら本書を読むまでまったく存在を知らなかった。ただ調べてみると日帰り圏内に関連史跡があったので、先日そこを訪れてみた。その様子はまた後日公開したい。とにかくどこでどんなサーヴァントが登場するかまったく油断ならないという点で、とても魅力的な設定となっている。

 

 1巻の終了時点では主人公の能力や、敵対勢力の意図について説明不足に感じる点もあったので、2巻の発売を心待ちにしたい。

 

 

 

 

 


以下、ネタバレ

 

 

 

 聖杯を得て不老不死となった人々や、プロローグに登場したさまよえるユダヤ人など、「不死」や「永遠」といったキーワードが頻出したように思うが、そんな中で最後に明かされた少年の真名は「ボイジャー」であった。

 地球人類の文化を背負ってはるか遠くの宇宙を孤独に旅する探査機の擬人化。そんなもの思いついた時点で”勝ち”な最高にエモーショナルな設定ではないですか!エリセとボイジャーの運命がどのようなものになるのか続刊が待ち遠しい。事件簿シリーズみたいにコミケごとに出してほしかったけのだけれど……。