汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

聖杯大戦の物語がついに一般流通に!――東出祐一郎『Fate/Apocrypha Vol.1 外典:聖杯大戦』角川文庫

 2017年にテレビアニメ化もされた『Fate/Apocrypha』の原作小説。もともとFateシリーズを手掛けるTYPE-MOONが「TYPE-MOON BOOKS」という自社レーベルから出版していたために通常の流通には乗らず、アニメイトなどの専門店でしか買えなかった『Fate/Apocrypha』だが、この度角川文庫から出版され全国の書店で買えるようになった。しかも文庫化ということでお値段的にも手に取りやすくなり、アニメを見ていた私も、これを機にと原作を読んでみることにした。

 

 

■聖杯大戦

 サブタイトルに聖杯”大戦”とあるが、本来Fateシリーズで行われるのは聖杯”戦争”である。7人の魔術師が歴史上の英雄や神話の登場人物を使い魔(=サーヴァント=英霊)として召喚して互いに殺し合い、最後に残った一人が万能の願望機”聖杯”を手にする。これが聖杯戦争の概要である。

 ところが今作ではとある魔術師の一族が結託し、仲間内で7騎のサーヴァントを召喚してしまった。これではいけないと結託した魔術師に対抗するためにもう7騎のサーヴァントが召喚され、7騎対7騎の団体戦が始まる。これが聖杯戦争ならぬ聖杯大戦というわけである。

 

■四つのストーリーライン

 とにかく登場人物の多い本作だが、おおまかに四つのストーリーラインを把握すると読みやすくなるかもしれない。まずは大聖杯を強奪し魔術協会に反旗を翻したユグドミレニア一族と、彼らに召喚された黒のサーヴァントたちの物語。協会では冷遇されていたユグドミレニアは大聖杯の力によって協会からの独立を謀る。

 ユグドミレニア一族といっても本当の親族ではなく、様々な魔術師にユグドミレニアの名を与えることで拡大してきた経緯がある。そのため一枚岩の組織とは決して言えない。中でもセイバーのマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアはその小物っぷりでアニメでも強く印象を残していた。しかし原作を読むとゴルドが錬金術師としてどのように優秀であるか、この計画に不可欠な人材であったかの解説があり、フォローされている。しかし彼の行動がいかに愚かであったかということも、懇切丁寧に説明されていて、思わず笑ってしまった。

 

 二つ目にはそのユグドミレニアに魔力供給用として造られたホムンクルス(人造人間)の一人、ジークの物語。『Fate/Apocrypha』は群像劇であるとはいえ、一人主人公を選ぶとするなら彼になるだろう。ホムンクルスでありながら「生きたい」という自我を持った彼は脱出を試み、黒のライダー・アストルフォに助けられる。そして聖杯大戦の監督役であるサーヴァント、ルーラーとの出会いが物語を大きく動かしていくのだが、それはまた2巻以降のお話。

 

 ユグドミレニアが使役する黒のサーヴァントに対抗するのは、魔術協会及び聖堂教会から派遣された魔術師が使役する赤のサーヴァントたち。しかし、セイバーを除く6騎のサーヴァントを聖堂教会から派遣されたマスターが一人で使役している様子でどうにもきな臭い。
 マスターとサーヴァントの関係性というのがFateシリーズの一つの肝なので、赤側のマスターがほとんど描写されないと知った時には残念に感じたものだが、登場人物の多さを考えるとやむなしといったところだろうか。(しかし『Fate/strange Fake』で成田良悟が13組のマスターとサーヴァントを書き分けている。Fate関連作家は層が厚すぎる......!)

 

 そして最後は赤のセイバー組の物語。魔術協会に雇われた凄腕のフリーランサー、死霊魔術使いの獅子劫界離は、円卓の騎士の一人にして、伝説を終わらせた騎士、モードレッドを召喚する。扱いの難しいサーヴァントであるはずのモードレッドといとも簡単に打ち解けるコミュニケーション能力の高さから、アニメ視聴者からの人気も高かったが、原作を読むとそもそも獅子劫とモードレッドの相性がとても良いということが分かる。彼らのパートはモードレッドの好戦的な振る舞いと快活さで、読者をぐいぐいと引きつける。

 

 Vol.1ではアニメ版の4話までの内容が描かれている。まさかの人物の退場にFateシリーズを良く知っている人ほど驚いたのではないだろうか。Vol.2では遂にホムンクルスの少年とルーラーの少女が出会い運命が動き出す。今後も文庫追いかけていきたい。