こういう企画もっと増えてほしい――『FGOミステリー小説アンソロジー カルデアの事件簿 file.01』
TYPE-MOONがおくるアプリゲーム『Fate/Grand Order』の公式小説アンソロジー。タイトルにあるとおり、ミステリー作品の短編を集めたものとなっています。筆を執るのは、Fateシリーズの原作者である奈須きのこの指名を受けて、FGOの期間限定イベント「虚月館殺人事件」「惑う鳴鳳荘の考察」のシナリオを書き下ろした円居挽をはじめ、汀こるもの、天祢涼、織守きょうやといったミステリ作家兼歴戦のマスターたちです。
しかしそんな彼らを差し置いて、この企画をきっかけにFGOを始めたという青崎有吾の「暗黒犯罪天楼 マンハッタン」がFGOのノベライズとして完璧だったので、マスターの皆様にはぜひ手にとっていただきたいです。
○青崎有吾「暗黒犯罪天楼 マンハッタン」
そもそもFGO本編のシナリオをざっくり説明すると、「レイシフト」という技術で過去にタイムトラベルし、実在非実在を問わず様々な地域・時代の英霊(サーヴァント)たちと協力し、「聖杯」を回収して歪められた歴史を正しく修正するというものです。そのため本編シナリオにおいて、「どの時代」の「どの場所」に行き、「誰が」登場するのかということはとても重要で、情報が公開される度にどんな冒険が始まるのかとワクワクしていました。(少なくとも私は。)
今回はミステリーのアンソロジーなので、必ずしもレイシフトしなければならないということもなく、カルデア内で物語が進行するものも多いのですが、「70年代!マンハッタン!マフィアの金庫を破る!」なんて情報を与えられたら、それだけでアガってしまいます。
70年代! ニューヨーク! マフィア! スーツ! 女ボス! 金庫! でかい金庫! を! 破る! やつを! FGOで!!! やる!!!!
— 青崎有吾 (@AosakiYugo) 2020年2月14日
という感じのお話を書きました。『FGOミステリー小説アンソロジー カルデアの事件簿file.01』明日あたりから書店に並びます。よろしくお願いします。 pic.twitter.com/vggb7X4xcf
今作のミステリとしてのテーマは「金庫破り」。とあるマフィアの女ボスが巨大な金庫にしまった聖杯を奪取することが、今回のミッションです。どんな頑丈な金庫であろうと、魔術師やサーヴァントの手にかかれば意味をなしませんが、今回の特異点では聖杯の力によって魔術が使えなくなってしまいます。
そんな状況でマスターと共に金庫破りに挑むメンバーは、各種宝具が使えない牛若丸に、潜入には最適なステルス宝具「顔のない王」が使えないロビンフッド、そして詠唱のできないアンデルセンというポンコツ三人組。 (マスターも入れて四人組。)
そんなマスターたちに対して、聖杯の持ち主である女ボスが召喚した湖の騎士・ランスロット(魔術が使えなくても超強い)と水滸伝の拳法家・燕青(同じく)が立ちはだかります。マフィアの一員として潜入し、チャンスを伺うマスターたちは、果たして巨大金庫と二騎のサーヴァントをどう攻略するのか。歴史的事件も絡めたラストの展開は必見です。
また本作の魅力はこれだけではありません。オリジナルキャラクターであるマフィアのボス・ケイトも、その背景が作り込まれていて、とても魅力的なキャラクターとなっています。ノベライズ作品にモブではなく、がっつりとオリキャラを登場させ、なおかつ作品を破綻させないというのは、なかなかにすごいことなのではないでしょうか。
わずか70ページほどの短編にこれでもかと要素を詰め込んだ傑作、マスター各位はぜひご一読ください。
その他、土方歳三の句集を巡るぐだぐだ組のドタバタを描いた汀こるもの「土方歳三
(と)誘拐事件」、
二柱の女神による推理合戦天祢涼「イシュタルとエレシュキガルの事件簿」、
記憶喪失になったマスターとメイヴが奇妙な風習のある村の謎を解く織守きょうや「少女は籠のなか」、
聖晶石やAPといったカルデアのシステムについてホームズとモリアーティが推理をぶつける円居挽「Malice or Romance」の4編が収録されています。