『アンデッドガール・マーダーファルス 1』青崎有吾――怪物たちに異形の探偵が"知"と"暴"で挑む
舞台となるのは、吸血鬼などの怪物が実際に息づく19世紀末の欧州。”怪物専門”の異形の探偵・輪堂鴉夜(りんどう あや)と、その弟子・真打津軽(しんうち つがる)が怪事件に挑む、ミステリ×怪異バトルの傑作です。
○推理パート
二つのエピソードで構成された『アンデッドガール・マーダーファルス』の第1巻ですが、物語は吸血鬼の住む古びたお城から始まります。「怪物の王」とも呼ばれるほど強大な力をもった吸血鬼ですが、そんな吸血鬼の一人であるゴダール卿は、人間を襲わない「親和派」として知られていました。
そんなゴダール卿の居城で、元人間のゴダール卿夫人・ハンナが何者かに殺害されます。吸血鬼が被害者ということで腰が重い警察に業を煮やしたゴダール卿は怪物専門という探偵を呼び寄せるのでした。
そして屋敷に一組の男女が到着します。一人はつぎはぎだらけのコートを羽織ったやたらと軽口の多い青年で、顔には左目を貫くようにして一本の青い線が走っています。そして、手にはレースに覆われた鳥籠のようなものを抱えているのでした。もう一人はメイド服を身にまとった若い女性で、ほとんど口を動かさず、その背には布を巻かれた長い棒のようなものを背負っています。
屋敷に着いた彼らは、挨拶もそこそこに早速調査を始めます。しかしなんといっても被害者は吸血鬼です。多少傷つけられてもたちどころに回復してしまう彼らに、人間の理屈は通用しません。しかし同時に、日光や銀など、吸血鬼には広く知られた弱点もあります。このように怪物の理屈をあてはめながら、推理は進行していきます。
○”暴”パート
ところで、「名探偵、皆を集めてさてと言い」なんて決まり文句がありますが、探偵役が関係者一同を集めて推理を披露し犯人を追い詰めるというのは、推理ものではよくある場面です。探偵も関係者も全員人間であるならばそれでもいいでしょうが、もしその犯人が実は怪物だったとしたらどうでしょうか。バレてしまっては仕方がないと、その場で全員殺されてしまうかもしれません。そこで登場するのが”暴力”です。
著者によると、本作『アンデットガール・マーダーファルス』は迫稔雄の漫画『嘘喰い』に大きな影響を受けているとのこと。
『嘘喰い』の登場人物は基本的に、めっちゃ頭がいい頭脳派とそいつをあらゆる暴力から守る肉体派という二人一組で行動するんですが、これはミステリにおける探偵と助手の関係性にも落とし込めると思ってまして、そのあたりの根っこの部分で自分はものすごく影響を受けています。これからも受け続けます
— 青崎有吾 (@AosakiYugo) 2018年2月19日
『嘘喰い』ではギャンブラーの策略を通すために、知性だけではなく暴力も必要とされました。同じように、『アンデッドガール・マーダーファルス』においても、犯人に負けを認めさせるためには、探偵側は知性と暴力の両方で上回る必要があるのです。よって本作は推理パートと”暴”パートの両輪で展開します。
数々の怪物を黙らせる輪堂鴉夜と真打津軽の”暴力”とは果たしてどのようなものか、ぜ本編でご確認ください。
〇近代ヨーロッパオールスターキャスト
本作の世界観では吸血鬼などの怪物だけでなく、創作上の有名なキャラクターたちも作中の実在人物として登場します。この1巻ではまだまだ名前だけですが、シャーロック・ホームズやカーミラ、ドラキュラ伯爵などなど……。ほかにもビッグネームが登場します。
さらに1巻2章では、まだ警察だった頃のあの有名な探偵が登場し、輪堂たちと推理合戦を繰り広げます。
2巻ではさらに多くのキャラクターたちが入り乱れる様子。読むのが楽しみです。