汗牛未充棟

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『FGOミステリー小説アンソロジー カルデアの事件簿 file.02』――2ヶ月連続刊行の第2弾!ボリュームたっぷりの中編3本収録です

 TYPE-MOONがおくるアプリゲームFate/Grand Orderの公式ミステリ小説アンソロジー。file.01と2ヶ月連続刊行となっています。file.01では60ページほどの短編が5本収録されていましたが、このfile.02では中編が3本収録されており、本数こそ減っているものの、厚さはfile.01を上回っていてボリュームたっぷりです。

 執筆陣はシナリオライターamphibian、内科医で小説家の津田彷徨、そして『薬屋のひとりごと』の日向夏の三人。どの作品もそれぞれの作家の得意分野といえるような状況が設定され、マスターの藤丸立香とサーヴァントたちが謎に挑みます。

 file.01の感想にも書きましたが、個人的にFGOのシナリオの面白さは、「時代」「場所」「登場するサーヴァント」を自由に組み合わせられることにあると思います。よってカルデア内で完結する物語よりも、どこかにレイシフトするストーリーの方が好みなのですが、今回の三編はどれもそれぞれの作家が本領発揮できるようなチョイスがされていて、とても良かったです。

 

FGOミステリー小説アンソロジー カルデアの事件簿 file.02 (星海社FICTIONS)
 

 

〇amphibian「鎌切村忌譚」

 時代:???  場所:鎌切村  味方サーヴァント:宝蔵院胤舜刑部姫清姫

 「一切完勝」後の下総国を探索していた立香たちは、ふとした拍子に謎の廃村に迷い込んでしまいます。そこは既に寂れていて無人の村でしたが、所々に通称”鬼婆スポット”があり、触れると鬼婆が現れて戦闘になってしまいます。当然のようにカルデアとの通信も途絶し、さらには夜が更けるととあるイベントが起きたあと同じ一日がループするという異様な状況で、立香は宝蔵院胤舜刑部姫清姫らとともに鎌切村の謎に挑みます。

 先述の鬼婆スポットに触れることでエンカウントする鬼婆は、倒すことで遺骨や遺髪などをドロップします。それらを一定数集めて供養すると、立香は段階的に鎌切村の歴史を幻視します。この流れは、特定のクエストを周回してアイテムを集めたり、ミッションをクリアしたりすることでシナリオが解放されるという、FGOのイベントでよくある流れを踏襲したものでしょう。

 個人的な嗜好としては、「クラス相性やAP、聖晶石などは、あくまでFGOをゲームとして成立させるための設定であって、小説やマンガなど別メディアにおいては無視してほしい」派なのですが、この「鎌切村忌譚」はFGOの「期間限定イベント」というゲーム的要素を巧みにストーリーのうちに落とし込んでいます。

 鬼婆を延々と倒していくうちに、物語は意外な方向に展開していきます。この辺は二次創作的なアンソロジー企画だからこそできるような大ネタで、面白かったです。***好きのマスターには彼女の可能性の一つとして、ぜひ読んでほしい物語でした。

 


〇津田彷徨「ロンドン黒死病事件」

 時代:16世紀初頭  場所:ロンドン  味方サーヴァント:マシュ、ナイチンゲール

 新たに見つかった特異点を修正するため、黒死病が蔓延する16世紀初頭のロンドンへ向けて藤丸はレイシフトします。ともにカルデアからレイシフトするのはマシュと、そしてナイチンゲール黒死病が蔓延しているという状況の中、ナイチンゲールというのは納得の人選ですが、彼女の他にも医療系サーヴァントが登場します。

 聖杯の反応を探知して藤丸たちが向かった巨大な病院では、院長代理をジキルが、内科部長をパラケルススが、そして外科部長をサンソンが務め、それぞれがそれぞれの方法で黒死病と戦っていました。患者の脱走事件や、次期院長選挙、そして何より黒死病に対する対処方針の違いによって対立する彼らの間に、王室からの調査員という体で藤丸たちが介入します。

 聖杯所持者は何を望んでいるのかという”ホワイダニット”をめぐる、現役医師ならではのFGO×医療×ミステリが展開します。

 


日向夏「密室遊郭

 時代:江戸時代?  場所:置屋「うつせみ屋」  味方サーヴァント:???、???、???、???

 気がつくと、遊女たちが暮らす置屋という建物の庭に倒れていた藤丸立香。なぜ自分がここにいるのかも分からないまま、藤丸立香はその「うつせみ屋」という置屋で下働きとして暮らすことになります。次第に「異端なるセイレム」のシバの女王のように、サーヴァントたちが何らかの役割を与えられて生活しているらしいことが分かるのですが、認識疎外のかかった藤丸立香には正しく相手の姿を捉えることができません。そんな状況でわずかなヒントを手掛かりにサーヴァントたちの真名を看破しながら、真相に近づいていきます。

 各中編の扉絵をpakoさんの書下ろしイラストが飾っているのですが、「密室遊郭」の扉絵を見ると、「ほとんどネタバレじゃん」と思われる方もいるかもしれません。実際六割ほどのネタバレなのですが、もちろん後でひっくり返されるので安心してページをめくってください。

 

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