十二国記シリーズ 再読感想まとめ【part 2】
⑤『丕緒の鳥』
十二国記シリーズの短編集。「yom yom」に掲載された2編と書き下ろし2編が収録されている。新潮社の雑誌の掲載作品のため、もちろん講談社ホワイトハートX文庫版にはない作品だが、新潮文庫版では『風の万里 黎明の空』のあとシリーズ第5作に位置付けられている。
陽子が即位したばかりの慶国を舞台に、儀式用の陶器の鳥を作る陶工の懊悩を描く表題作「丕緒の鳥」や、国土を救うため荒廃した国を延々と旅する地方官が主人公の「青条の蘭」などが収録されているが、なんといっても白眉は「落照の獄」ではないだろうか。
「落照の獄」は柳国の裁判官の物語。小銭を奪うためだけに無惨にも子供を殺した大罪人狩獺。そのほか多くの罪を重ね、まったく反省の色のない狩獺に対し国民は死刑を求めるが、柳国では王によって死刑が禁じられていた。ところが王は、すべてを司法官の瑛庚に任せ、死刑を復活させても構わないと告げる。
民意は死刑を望んでいるが、ここで死刑を復活させれば死刑が濫用され、国が乱れるかもしれない。そもそも大罪人であれば制度によって殺してもよいのか。死刑を禁ずるという王命を重要視する官僚と、死刑を望む国民の板挟みになりながら、瑛庚は他の司法官とともに協議重ねていく。そして最後に下した結論とは…。
異世界の法制度の話ではあるが、だからこそ死刑とはどういうことなのか、賛否の両側面から掘り下げ考察した傑作です。
⑥『図南の翼』
先代の王の崩御後、三十年近く新たな王が現れず荒廃が進む恭国で、豪商の家に生まれた珠晶は単身で家を飛び出す。それは単なる家出ではなく、麒麟に会い自ら王になるための壮大な旅の始まりだった。
麒麟の住む蓬山にたどり着くためには、妖魔のテリトリーである黄海を抜けていかねばならない。黄海に住む妖獣を捕らえて飼い慣らし、騎獣とすることを生業とする猟尸師の頑丘。強大な騎獣を引き連れる謎の青年利広。彼らをお供に従えた珠晶は、過酷な旅を続けながら多くのことを学んでいく。
『風の万里 黎明の空』では王の娘であることの責任を全く自覚していなかった祥瓊を一喝した珠晶だったが、恵まれた境遇に生まれながらそれを自覚し驕らず、自らの責任を果たそうと努力する本作の珠晶の姿を見れば、それも納得の行動だろう。特に終盤で自身の過ちの責任を取るために強大な妖魔に立ち向かう場面は胸を打つ。珠晶の王たる資質を示した瞬間ではないだろうか。
これは余談だが、シリーズを通して景麒や頑丘そして延王尚隆など、正しい答えを持っているにも関わらず、それを説明しなかったことによってトラブルが起きるという展開が多くはないだろうか。「言ったところで」という気持ちは分からなくもないが、「せめて伝えようという努力はしろよ!」と読んでいてどうしても感じてしまうのであった。
⑦『華胥の幽夢』
⑧『黄昏の岸 暁の天』
十二国記シリーズの二作目『風の海 迷宮の岸』で戴国の新たな王となった驍宗は性急ともいえる勢いで、腐敗した官僚の刷新を進めていた。そんななか起きる地方の反乱。当初は難なく平定されると思われていたが、遠征先で驍宗の姿が忽然と消えてしまう。時を同じくして王宮で驍宗の帰りを待つ泰麒に迫る凶刃。傷を負った泰麒は自ら蝕を起こし、蓬莱へと流されてしまった。それから数年、偽王のもとで戴は荒れ果てていた。
そんな折、慶国の陽子のもとに戴国の将軍李斎が現れる。傷だらけになりながらも戴国を脱出してきた李斎から戴国の状況を知った陽子だが、今なお復興中の慶国に他国を援助するような余裕はない。果たして陽子はどう決断するのか。
今回の見どころはやはり麒麟たちの集結だろうか。さすがに一堂に会するとはいかないが、金波宮には4人の麒麟が集う。なかでも氾王と氾麟は初登場だが、息の合った主従でこれも魅力的だ。やはりこの魅力ある登場人物たちが、十二国記シリーズの大きな強みだろう。個人的には『風の万里 黎明の空』の中心人物である陽子、祥瓊、鈴の三人娘が仲良く宮中で働いている様子が書かれていてとても嬉しかった。
しかし、「戴国編につづく……」といった終わり方でありながら十八年も続きが刊行されないとは恐ろしい話だが、それだけの時を経ても再始動することができたことを喜ぶべきかもしれない。