汗牛未充棟

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野﨑まど版伝奇ミステリ!遺言の先に待つものとは――野﨑まど『舞面真面とお面の女 新装版』

 野﨑まどの第二長編となる『舞面真面とお面の女』。こちらの新装版が『[映]アムリタ』の新装版と同時発売となっている。
 「伝記ミステリ」と謳われている本作だが、果たしてどこまで信じることができるのであろうか。

 

舞面真面とお面の女 新装版 (メディアワークス文庫)

舞面真面とお面の女 新装版 (メディアワークス文庫)

 

 

 工学部の大学院生である舞面真面(まいつら まとも)は、恩義のある叔父に乞われ、年の暮れに田舎にある舞面の屋敷を訪れる。舞面家は戦前に一代で財閥を築いた名家であったが、戦後の財閥解体の折に当主の舞面彼面(かのも)が亡くなって以降凋落し、現在では土地と屋敷を残すばかりになっていた。

 そんな折、屋敷の蔵から「心の箱」と題された謎の箱が発見される。実は舞面家には彼面が遺した不思議な遺言が伝わっていた。

 「箱を解き 石を解き 面を解け よきものが待っている」

 もしかしたら彼面の遺産が見つかるかもしれない。真面は従兄弟である水面(みなも)、そして探偵の三隅とともに調査を始める。そんな彼らの前に現れたのは、狐とも狗ともつかない不思議な動物の仮面をかぶった少女であった。

 

 一代で潰えた財閥当主の謎の遺言に、これまた謎のキーアイテム、さらに輪をかけて不思議なお面の少女と、遺産を狙った殺人事件かそうでなければ超能力バトルでも始まりそうな雰囲気である。しかしそんな血なまぐさい展開にはならず、一歩ずつ推理は進んでいく。『[映]アムリタ』でもそうだったように、想定される展開のその先で、真に物語が動きだす。

 

 


 これ以降は物語の核心に若干触れてしまうが、本作からはお約束を裏切ろうというような意図を感じる。お約束というのは例えば、謎めいた遺言と共にキーアイテムっぽいものが出てくれば絡繰り仕掛けがあるだろうし、超常の化け物の仕業にみえる殺人が何らかのトリックによるものだった、といったものである。
 少なくとも私はそういう心構えで読んでいたので、終盤明かされた事実に呆然としてしまった。