汗牛未充棟

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『筺底のエルピスー絶滅前線ー』オキシタケヒコ――超ド級のSF異能バトル!

 絶対好きなタイプの作品なのに、なかなか読むきっかけがなくて後回しにしている。読書好きならば、そんなシリーズ作品が一つや二つ思い当たるという方も多いのではないでしょうか。私の場合、小川一水『天冥の標』や、瘤久保慎司『錆喰いビスコ』がそれにあたります。 

 オキシタケヒコの『筺底のエルピス』もそんなシリーズの一つだったのですが、既読の方々の熱烈なPRに背中を押されて、ついに1巻を手に取ることができました。

 

 
 物語は、《門部》という組織に所属する二人の封伐員、百刈圭(ももかり けい)と乾叶(いぬい かなえ)が”鬼”を封伐しようとするところから始まります。鬼といっても生物としての鬼を示しているわけではなく、「殺戮因果連鎖憑依体」という異次元の存在に憑依された人間をそのように呼称しています。この憑依体は憑依した人間を殺人に駆り立て、さらには身体を強化し、場合によっては超感覚すら授けます。

 そんな鬼に対して封伐員は「停時フィールド」という特殊な武器で立ち向かいます。この停時フィールドが展開されると、その空間内部の時間が停止し、さらに空間の境界面はあらゆる物質を切断します。

 また、この停時フィールドは封伐員共通の武器ですが、使用者によってフィールドの大きさ、展開できる距離、展開の持続時間などのパラメーターが異なる形で発現します。そのため使用者によってそれぞれ異なった特徴が現れ、固有名がつけられることになります。

 この停時フィールド、百刈圭と乾叶の能力がまったく対照的で面白いですね。百刈圭の《朧筺》は、持続時間が3秒しかない代わりに、大きさも距離も自由自在で、とてもシンプルで分かりやすい能力をもっています。

 一方で乾叶の《蝉丸》は、大きさは日本刀サイズが限界で、手元以外の場所には展開できません。展開と消滅を瞬時に繰り返す《蝉丸》は持続時間も不安定です。あらゆるものを切り裂く刃にはなりますが、それ以外全く応用の利かない不自由さです。そんな二人がコンビを組んで鬼と対峙します。

 彼らの他にも、「まだ1巻なのにそんなトリッキーなやつ出てくるの⁉」と思うような能力者も登場します。個性的な能力は異能バトルものの醍醐味ですね。

 

 特殊な能力で”鬼”を退治するというここまでのあらすじだけを見ると、ジャンプの読み切りとかでよくある退魔系の作品なのかなという感じですが、ここから次々と世界が拡がっていきます。

 先ほどの殺戮因果連続憑依体ですが、異次元の存在であるため、憑依された人間を倒しても憑依体自体には何のダメージもありません。しかも憑依先の人間を殺すと、殺した側の人間に憑依しなおすという厄介な性質を持っています。この憑依体を消滅させるために行うのが、なんと未来の世界へのタイムトラベルなのです。なぜそれで消滅するかのロジックはここでは省きますが、ここでいきなり時間方向に世界観が大きく広がります。

 そして、鬼は世界中に現れるんだから当然世界規模の鬼狩りの組織もあるよね、といった感じで百刈たちとは別の組織の能力者が登場し、作品の世界観が横方向にも大きく広がります。さらにはとある特殊な鬼を巡って、能力者同士の争いへと物語はなだれ込んでいきます。

 

 退魔ものかと思ったら、SF、異能バトルと次々と変わる読み味に翻弄されながら、夢中でページをめくり(スワイプ)ました。

 1巻だけでも十分な面白さでしたが、ここからどんどんと面白くなるとのこと。続きが楽しみです。

 

 

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