汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

竹田人造『AI法廷のハッカー弁護士』――傲岸不遜なハッカー弁護士&「得意科目は道徳」な依頼人バディ 対 超個性的な証人たちの法廷バトル!

 デビュー作『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』では、ごく近未来のAI技術をテーマに痛快なクライムサスペンスを仕上げた竹田人造。第二長編となる本作では、同じく男性バディが主人公AIをテーマとしながらも、法廷に舞台を移し、超個性的な登場人物たちが壮絶なバトルを繰り広げる

 

 

 本作の内容について説明するためには、まずタイトルに注目するのが手っ取り早いだろう。つまり「AI法廷」と「ハッカー弁護士」とは何であるかということだ。

 「AI法廷」とは、端的に言えば、AIが裁判官を務める法廷のこと。検察官と弁護士は、それぞれAI裁判官の前で被告人質問や証人尋問を行い、それらを基にAIが判決を下す

 訴訟大国アメリカで生まれたこの仕組みは、省コスト化によって訴訟の回転率を上昇させる上に、誤解や偏見のない法の執行が行われるという触れ込みで導入された。しかし、運用にあたって本当に問題がないのかというとそうでもない。それは仲間内からハッカー弁護士」とも呼ばれる本作の主人公、機島雄弁の存在が証明している。

 ハッカーと言っても、「カタカタカタ ッターン!」で証拠や判決を改ざんするわけではない。AI裁判の運用の穴をついて勝利をもぎ取るのが機島雄弁という男だ。

 しかしクラッキングをしないといっても、後ろ暗いことが全くないわけではない。とあるアクシデントによって機島雄弁は、依頼人でもあり本作のもう一人の主人公・軒下智紀とコンビを組むことになるのだった。

 

 全4章で4つの事件を扱う本作は、この一冊できれいに物語を完結させている。しかしもっと彼らの活躍を見たくて仕方がない。それだけ主人公コンビをはじめとした登場キャラクターの誰もかれもが、非常にキャッチ―に書かれている。

 キャラ作りについてはインタビューで著者本人が「どんなキャラクターでも長台詞を書けるようにしたい」と述べている*1が、長台詞に限らず、キャラクターの人となりを端的に表すような台詞回しが目を引く

 

 私のお気に入りは自意識過剰だと言われた機島雄弁の「お言葉ですが、私の自意識はジャストフィットです」という返しの台詞。高級ブランドの衣服を身に着け、尊大で傲岸不遜に振る舞う機島の態度は、確かに一見自意識過剰に見える。しかしそれらの態度がただの増長からくるものではなく、明らかにコントロールされたものであるからこそ、この機島雄弁という主人公が、とても魅力的な存在になっている。

 また、完璧人間というわけでもなく、例えば美術品に対する鑑定眼が絶望的といったような、わかりやすい欠点があるところも絶妙に愛らしい。

 

 そんな機島とコンビを組むことになる軒下智紀もまた、面白いキャラクターになっている。プロフィールにもある通り、道徳を「得意科目です」などとのたまう彼。わかりやすい評価基準を持たない道徳が「得意」というのは何事かといったところだが、その正体は読んで確認していただきたい。そんな彼はAIにも匹敵する、とある能力で機島をサポートすることとなる。

 

 登場キャラクターからもう一人、一つ目の事件で検察側の証人として登場する井ノ上翔を紹介したい。若くして成功したカリスマ実業家であり、大規模なオンラインサロンも運営しているという彼は「イエス。井ノ上、イノベーションという決め台詞を何度も口にする。尊大という点では機島と変わりないが、この決め台詞からはより自意識の強さを感じさせ、機島とはよい対称になっている。

 井ノ上以降も、毎回超個性的なキャラクターが検察側の証人として登場するため、そこにも注目してほしい。

 

miniwiz07.hatenablog.com