汗牛未充棟

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2019.8 読了本まとめ

 8月は9冊読むことができた。お盆の期間にブーストをかけられたということもあるが、順調なペースだ。今後も毎月10冊前後のペースを維持したい。

 今月は『三体』に『なめらかな世界と、その敵』と、早川書房のビッグタイトルが並び立ち、界隈がかなり賑わったように思う。個人的には『なめらか~』の伴名練に続き、陸秋槎、小川一水など『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』に寄稿した執筆陣の新刊が予告されているので9月以降の早川にもとても期待している。百合丸パイセン頑張って!

 10月には十二国記シリーズの新刊が控えているため、9月は十二国記シリーズの復習に勤しみたい。最新作に景王の出番はあるのかな……。

 


8.3 西尾維新『ヴェールドマン仮説』講談社

→ 著者100冊目の記念作、探偵一家の物語!――西尾維新『ヴェールドマン仮説』 - 汗牛未充棟

 

 

 

8.11 月村了衛『機忍兵零牙〔新装版〕』ハヤカワ文庫JA

→  【随時更新】「ハヤカワ文庫の百合SFフェア」 新刊全レビュー‼ - 汗牛未充棟

 

 

8.12 劉慈欣 著 (大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳)『三体』早川書房 
三体

三体

 

  中国発、世界的な人気を誇るSF小説が遂に日本に上陸。

 本作は3つのストーリーラインがそれぞれ進行する。一つ目は文化大革命で弾圧された末に、とある研究所にその半生を捧げることとなった天体物理学者・葉文潔が主人公の「過去」の物語。二つ目は物理学者の連続自殺やゴーストカウントダウンなどの謎を追う、ナノマテリアルの研究者・王淼が主人公の「現在」の物語。そして捜査のなかで王が遭遇した「三体」というVRゲームの中で進行する「架空」の物語である。

 VRゲーム「三体」の内容は、かなり特殊なものとなっている。ゲーム内世界では、一定の感覚で太陽が昇っては沈む「恒紀」と、太陽の動きが完全に不規則になり何年も昼や夜が続くこともある「乱紀」に分かれている。この不規則な太陽の運行を予測することがクリア目標となっている。

 現代社会ではすでに多くの自然現象について科学的に解明されてしまっているが、「三体」をプレイする王を通して、観察し、仮説を立てて、法則を解明していくという研究の面白さを体験することができる。

 そして、一見本編との関連が薄そうなこの「三体」パートが、終盤の怒涛の展開に上手く効いてくるのだ。

 三部構成となる本作の第二部『黒暗森林』の邦訳は2020年の発売が予定されている。世界的なムーブメントに遅れないためにも年内に読むことをおすすめしたい。

 

 

8.16 小野不由美『月の影 影の海 十二国記』上下 講談社X文庫ホワイトハート 
月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

 

  言わずと知れた不朽の名作。2019年10月に新作の発表を控えたいま、数年ぶりに読み返した。

 十二国記は中華風のファンタジー世界が舞台だが、一作目の主人公・中嶋陽子は現代日本の女子高生。彼女の元に突然謎の男ケイキが現れ、さらに怪物が襲いかかる。怪物に追われる陽子はケイキの(強引な)導きで異世界にたどり着くが、ケイキとははぐれてしまい、そこから陽子の孤独な旅が始まる。

 今なら、いわゆる異世界モノと分類されるだろうか。異世界系作品につきもののチートスキルも持ち合わせている。陽子は普通の女子高生ながら、ケイキの使令(使い魔)が憑依したことによって、体が勝手に動いて敵を切り伏せる。また、ケイキに渡された剣の鞘についていた珠飾りの力によって、怪我の回復が早まり、飢餓状態でも最低限動くことができる。

 しかし、陽子が持つのはそれだけでしかない。ケイキに出会うまでただの女子高生でしかなかった陽子は、当然ながら敵を殺す覚悟などなく、処世術もない。勝手に動く体が怪物を殺す感触や流れる血に怯え、異世界で出会う人々に騙され利用され、身も心も傷つきながらだんだんと変質していく陽子の姿が、読んでいてとても痛々しい。

 そして下巻でついにネズミの半獣・楽俊との出会いが訪れる。人々に裏切られ続けて楽俊の優しさを信じきれない陽子の葛藤と、その先に訪れる大きな選択。読む手を止められない展開が続く。

 陽子の気持ちに寄り添って読むことでとても良い読書体験になった。

 

 

8.18 小野不由美『風の海 迷宮の岸 十二国記』上下 講談社X文庫ホワイトハート
風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

 

  十二国記シリーズ2作目は前作の『月の影 影の海』から少し前の時代の物語。前作の主人公・陽子と同じく、十二国の世界で生まれるはずが日本で生を受けてしまった戴国の麒麟・泰麒が主人公となる。

 無事連れ戻された泰麒であったが本人に麒麟であるという自覚はなく、姿を変化させたり、使い魔(使令)を従えるといった、麒麟なら当たり前にできることができない。女怪や女仙に世話をされながら何不自由なく暮らす泰麒だが、戴国の王を選ぶという運命を前にして、果たして正しく選ぶことができるのかと大きな不安を抱えていた。そんななか泰麒は、彼こそ次代の王と目される男、驍宋に出会うのだった。

 前作の陽子よりもさらに幼い泰麒が自らの責任に向かい合う様は、読んでいてつらくもあり同時に勇気づけられる。

 先日発表された最新作『白銀の墟 玄の月』の表紙には成長した泰麒の姿が描かれていた。ここから長く続くであろう泰麒の物語の始まりとして心躍るものだった。

 

 

8.22 伴名練『なめらかな世界と、その敵』早川書房

→ ステータスオールAみたいなやばいやつ――伴名練『なめらかな世界と、その敵』 - 汗牛未充棟

 

 

8.30 椎名誠かぐや姫はいやな女』新潮文庫
かぐや姫はいやな女 (新潮文庫)

かぐや姫はいやな女 (新潮文庫)

 

 本書は各雑誌に掲載されたエッセイを4つのテーマごとに集めたもの。タイトルの「かぐや姫はいやな女」とは「オトギ噺」をテーマに集められたエッセイの冒頭である。おとぎ話や昔話を独自の見方で語りなおすというのはよくあるが、異星人の侵略と捉えるのは聞いたことがなかったので、楽しく読めた。

 そしてテーマは「旅」「酒」「水」と続く。私はこの中でも旅をテーマにしたエッセイが面白かった。砂漠の思い出が語られたかと思えば、北極圏での体験が綴られる。著者が真に冒険家であることが分かるが、それらの文章を通して、どのような過酷な環境であってもそこで生活を営む人々がいるのだということが伝わってくる。

 また、世界の果てのような場所への旅だけでなく、仲間内での国内旅行についても語られている。このことも既に多くの書籍で語られていると思うが、(私も叔父にもらった『あやしい探検隊 北へ』を読んだことがある)何度読んでも彼らの旅に憧れてしまう。

 椎名誠は男の憧れを体現しているように思った。