汗牛未充棟

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著者100冊目の記念作、探偵一家の物語!――西尾維新『ヴェールドマン仮説』

 

ヴェールドマン仮説

ヴェールドマン仮説

 

 

 西尾維新の記念すべき100冊目の作品。正確には講談社から刊行された作品のうち、ノベライズとトリビュート作品を除いたオリジナル作品のうち100冊目である。

 主人公は探偵一家の次男・吹奏野真雲。「おじいちゃんが推理作家で、おばあちゃんが法医学者、父さんが検事で母さんが弁護士、お兄ちゃんが刑事でお姉ちゃんがニュースキャスター、弟が探偵訳者で妹はVR探偵」というように、家族全員がミステリ作品の探偵役にありがちな職業に就くなか、無職の真雲が家事を行い家庭を支えている。そんな真雲が首つり死体に遭遇したことをきっかけに、連続殺人事件を追うことになる。

 西尾維新作品の魅力は、なんといっても個性的なキャラクターたちだろう。本作でも探偵一家の面々が魅力的に描かれている。謎の怪人"ヴェールドマン"も存在感を放つ。

 これらを西尾作品の魅力の光の側面だとすると、闇の側面としては『少女不十分』や『猫物語(黒)』に代表されるような「歪な家庭環境のおぞましさ」があるだろう。『ヴェールドマン仮説』はこの両面を備えた物語となっている。

 

 

以下、若干のネタバレと愚痴

 

 

 惜しむらくは、「個性的なキャラクター」と「歪な家庭環境」どちらも中途半端になってしまっていることだ。

 100冊記念と大々的にキャンペーンがうたれ、全国の書店に探偵一家それぞれのパネルが設置された『ヴェールドマン仮説』。家族の一人ひとりが推理を展開して推理合戦をしたり、章ごとに家族たちが入れ替わり立ち替わりで真雲と軽妙な掛け合いをするのかと思ったが、特にそんなこともなく……。

 キャラ見せ的に冒頭で登場してからほとんど出番のないキャラもいたほどだ。これがシリーズものであれば、一人ずつスポットを当ててということもあるだろうが、記念作的な扱いの本書では微妙なところだろう。

 また「歪な家庭環境」についても、主人公自信が暴いた『少女不十分』などに比べてインパクトが薄かったように思う。

 昔の作品は良かったと古参アピールする厄介にはなりたくないと思いながら、それでも自分が中学生のときに読んだ『クビキリサイクル』や『化物語』のような読書体験を求めてしまうのだった。

 

少女不十分 (講談社ノベルス)

少女不十分 (講談社ノベルス)