汗牛未充棟

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2019.7 読了本まとめ

 長かった梅雨が明け、ようやく夏が始まった。各地でビアガーデンなども始まり、飲み会が多くなる季節だろう。しかし、私は職場の飲み会というのがどうも好きになれない。去年も、勤め先での慰労会に「飲み会苦手なので……」みたいな感じで断ったら、のちのち上司に「強要はできないけど、参加することが大事なんだよ」と諭されてしまった。とろマルくんと話したいと言ってくれるありがたい上司もいたが、実際飲み会の場で盛り上がったかというと…。

 思うに「参加することが大事」というのはまさにその通りで、上司としては飲み会の参加率が高いことで「自分は人望がある」もしくは「職場の人間関係は円滑」ということの証明としているのではないか。だからとにかく参加率が大事で、欠席する場合も「子どもの面倒が……」といったような明確な理由が必要なのだろう。

 そうはいっても日ごろから人付き合いの薄い私は、上手い欠席理由を思い付けず、なんとなく飲み会に参加してなんとなく時が過ぎるのを待つのだった。

 そんな感じで7月は4冊と短編が1編だった。最近SF作品が多めだが、8月も早川書房のSFが多くなりそうな予感。

 

 

7.2 矢部嵩『〔少女庭國〕』ハヤカワ文庫JA

→  https://miniwiz07.hatenablog.com/entry/2019/07/01/223324

 

 

7.14 七河迦南『夢と魔法の国のリドル』新潮文庫nex
夢と魔法の国のリドル (新潮文庫nex)

夢と魔法の国のリドル (新潮文庫nex)

 

 平成28年に新潮社から刊行された『わたしの隣の王国』が文庫化に伴い改題、改稿された作品。

 高校生最後の日に、研修医の彼氏・優と巨大テーマパーク・ハッピーファンタジアにデートに来た主人公の杏那。しかし優とはぐれた杏那はひとり不思議な世界に迷い込んでしまう。そこは一見現実のテーマパークのようでいて、キャラクターたちが実際に生きている夢と魔法の国だった。どうやらその異世界には魔王の脅威が迫っており、それに対抗するために杏那は現実世界から呼ばれたらしい。

 一方で現実世界に残った優は杏那を探そうとするが、パークの研究所で密室殺人事件に遭遇し、成り行きから犯人捜しを始めることになる。異世界における杏那の冒険と、現実世界における優の推理が交互に進行し、やがて一つの真実にたどり着く。

 本作の魅力はまず舞台設定にあるだろう。世界各国のファンタジー作品をモチーフにしたという設定のハッピーファンタジアの中には、『ナルニア国物語』からとったケアパラベルというホテルがあったり、『ゲド戦記』の多島海をイメージしたエリアが存在する。園内を移動する鉄道も、『ハリー・ポッター』になぞらえキング・クロス駅の9と4分の3番線から発車するなど気が利いている。ファンタジー好きなら一度は行ってみたいと思えるテーマパークだ。

 そして最大の魅力はやはり、作中に散りばめられたリドルだろう。杏那と優のそれぞれが遭遇した二つの密室事件が作中最大の謎となるが、それ以外にもチェスや魔方陣アナグラムを用いたリドルが作中様々に登場する。こちらは解きやすいものもあるため、リドルに出会ったら一度立ちどまって考えながら読み進めるのもいいだろう。そして読み終わったら、他の人の感想を調べることを推奨したい。「そんなところにもリドルがあったのか!」という驚きがあるかもしれない。

 

 

7.17 草野原々『【自己紹介】はじめまして、バーチャルCtuber真銀アヤです。』小説すばる Digital Book

  小説すばる2018年10月号に掲載された短編が電子版で発売されたもの。短編1編からでも売れる/買えるというのは電子書籍明確な強みだろう。

 Twitterで一瞬「Ctuber」なるものが話題になったため購入した作品。Youtubeで配信を行う人を「Youtuber」、生身の人物ではなく3DCGなどの姿となって配信を行うキャラクターを「Virtual Youtuber」=「Vtuber」と呼ぶ。件の「Character Youtuber」=「Ctuber」はVtuberと類似の存在だが、より架空のキャラであることを強調した呼称となるのだろうか。オリジンはハローキティYouTubeで配信を行う際に名乗ったものと思われる。これは既に抜群の知名度があるハローキティが既存のVtuberと区別をつけるために名乗ったのではないか。(ソースとかはない。)

 Ctuberにたどり着くために長々と説明してしまったがCtuber真銀アヤのCは「character」のCではなく、「意識 Consciousness」のCである。真銀アヤは意識を配信するのだ。視聴者は通常の配信のように映像を見るのではなく、自身が真銀アヤとなってバーチャル世界を体感する。

 物語は真銀アヤの配信パートと、テレビやラジオ、そして日常会話の一部が切り取られらような現実世界パートが交互に進行する。

 草野原々作品の特徴は、身近なサブカルチャーと難解な科学的哲学的理論の接続というところにあると思う。本作もその特徴が遺憾なく発揮され、とても聞き馴染みのあるCtuber真銀アヤの語りに乗せられ、意識についての難解な理論に誘われる。理解が難しいところもあるが、ページ数自体は少なく短時間でも読めるので一読することオススメです。

 

 

7.20 冲方丁『剣樹抄』文藝春秋
剣樹抄

剣樹抄

 

  文芸春秋オール讀物」で連載中の作品を単行本化したもの。本書の発売時点でまだ完結していないので、これから読む方はその点だけ注意していただきたい。

 本作の舞台となるのは明暦の大火から復興中の江戸の町。父親を旗本奴に殺され、芥拾いをしてなんとか暮らしている了助という少年と、のちの水戸黄門である水戸光圀の出会いから物語は動き出す。光圀は「拾人衆」という組織のお目付け役を任されるのだが、その組織は捨て子を拾っては特殊技能を教え、諜報活動をさせるというものであった。その拾人衆が追うのは悪質な放火犯たち。放火犯たちの間で取引される「正雪絵図」の出所を巡って子供たちの活躍が描かれる。

 注目ポイントは各話ごとに登場する江戸の有名人と了助との交流だろうか。当代一の湯女や初代の横綱など様々な人物と出会い、学び成長する了助が魅力的だ。またもう一人の主人公・水戸光圀との関係も見過ごせない。この二人の間にはとても重要な因縁があるのだが、その真実が明らかになったとき了助は、光圀は、いったい何を選択するのか。結末を心待ちにしたい。

 

 

7.27 森田季節『ウタカイ』ハヤカワ文庫JA

→ https://miniwiz07.hatenablog.com/entry/2019/07/01/223324