十二国記シリーズ 再読感想まとめ【part 1】
この秋に十八年ぶりの新刊の発売を控えた十二国記シリーズ。それに備えて、過去作を振り返ってみた。
中学生の頃、たびたび叔父に読み終わった本を送ってもらっていた。一回に送られてくる量は段ボール二つほどだったと思うが、そのなかに小野不由美の十二国記シリーズがあった。
講談社X文庫ホワイトハートというレーベルからなんとなく少女小説なのかなと思っていたが(実際いま思うと『月の影 影の海』の序盤は思春期の女子の共感を誘うものだった気がする)、読み始めると面白さに手が止められず、次々と読み進めていった記憶がある。
そう、確かに次々と読んでいった記憶はあるのだが、肝心の内容が断片的にしか思い出せない。思うに当時の自分は十二国記シリーズの作り込まれた社会制度や政治制度を十分に理解できなかったのではないか。(なんせほら、漢字がいっぱいだから……。)
大人になったいま改めて読み直して、新鮮な楽しさを味わっている。陽子・祥瓊・鈴の三人娘いいよね!
①『月の影 影の海 十二国記』上下
十二国記は中華風のファンタジー世界が舞台だが、一作目の主人公・中嶋陽子は現代日本の女子高生。彼女の元に突然謎の男ケイキが現れ、さらに怪物が襲いかかる。怪物に追われる陽子はケイキの(強引な)導きで異世界にたどり着くが、ケイキとははぐれてしまい、そこから陽子の孤独な旅が始まる。
今なら、いわゆる異世界モノと分類されるだろうか。異世界系作品につきもののチートスキルも持ち合わせている。陽子は普通の女子高生ながら、ケイキの使令(使い魔)が憑依したことによって、体が勝手に動いて敵を切り伏せる。また、ケイキに渡された剣の鞘についていた珠飾りの力によって、怪我の回復が早まり、飢餓状態でも最低限動くことができる。
しかし、陽子が持つのはそれだけでしかない。ケイキに出会うまでただの女子高生でしかなかった陽子は、当然ながら敵を殺す覚悟などなく、処世術もない。勝手に動く体が怪物を殺す感触や流れる血に怯え、異世界で出会う人々に騙され利用され、身も心も傷つきながらだんだんと変質していく陽子の姿が、読んでいてとても痛々しい。
そして下巻でついにネズミの半獣・楽俊との出会いが訪れる。人々に裏切られ続けて楽俊の優しさを信じきれない陽子の葛藤と、その先に訪れる大きな選択。読む手を止められない展開が続く。
陽子の気持ちに寄り添って読むことでとても良い読書体験になった。
②『風の海 迷宮の岸 十二国記』
十二国記シリーズ2作目は前作の『月の影 影の海』から少し前の時代の物語。前作の主人公・陽子と同じく、十二国の世界で生まれるはずが日本で生を受けてしまった戴国の麒麟・泰麒が主人公となる。
無事連れ戻された泰麒であったが本人に麒麟であるという自覚はなく、姿を変化させたり、使い魔(使令)を従えるといった、麒麟なら当たり前にできることができない。女怪や女仙に世話をされながら何不自由なく暮らす泰麒だが、戴国の王を選ぶという運命を前にして、果たして正しく選ぶことができるのかと大きな不安を抱えていた。そんななか泰麒は、彼こそ次代の王と目される男、驍宋に出会うのだった。
前作の陽子よりもさらに幼い泰麒が自らの責任に向かい合う様は、読んでいてつらくもあり同時に勇気づけられる。
最新作『白銀の墟 玄の月』の表紙には成長した泰麒の姿が描かれていた。ここから長く続くであろう泰麒の物語の始まりとして心躍るものだった。
③『東の海神 西の滄海』
シリーズ三作目はさらに時代を五百年ほど遡る。『月の影 影の海』で陽子が出会い、景国の奪還に力を貸してくれた雁国の王・尚隆と雁国の麒麟・六太が主人公の物語である。
尚隆が王となって二十年。政務を疎かにする延王は、雨季が近づいているのにこれでは堤防の工事が進まないと、家臣を困らせていた。一方延麒は六太という少年と再会する。更夜は魔獣に育てられた孤児であり、自分の名前すら分からなかった彼は、かつて六太と出会ったときに更夜という名前を贈られたのであった。
更夜はいま延国元州の州侯補佐・斡由に仕えているといい、六太を斡由のもとに連れて行こうとする。果たして斡由と更夜の目的とは。そして長い荒廃から立ち直ろうとしている延国にあって延王尚隆はなにを思うのか。
無能と思われていた主人公が実は……、というのは定番の展開ではあるが、やはり魅力的だ。十二国記世界において特別な関係性を持つ王と麒麟、その絆を堪能できる一編だった。
④『風の万里 黎明の空』上下
シリーズ四作目は三人の少女の物語がそれぞれ進行する。一人目の少女は一作目振りに登場の景王こと陽子。王となることを決意したはいいものの、海客である陽子にはこの世界の仕組みや常識が分からず、政治に明るいわけでもない。大人しく家臣たちの傀儡となるしかないが、その家臣同士も派閥争いをしており、なにが国のためになるのか陽子には分からなくなってしまう。そこで陽子は民衆の暮らしを知るべく、王宮を出るのであった。