汗牛未充棟

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2019.9 読了本まとめ

 
9.24 小野不由美『図南の翼 十二国記講談社X文庫ホワイトハート

十二国記シリーズ 再読感想まとめ【part 2】 - 汗牛未充棟

 

 

9.23 星空めておFate/Requiem 1 星巡る少年』TYPE-MOON BOOKS

聖杯戦争”後”の世界を描くFateスピンオフの最新作!――星空めてお『Fate/Requiem 1 星巡る少年』 - 汗牛未充棟

 

9.21 珪素『異修羅Ⅰ 新魔王戦争』電撃の新文芸

超常たちの激突、その前日譚――珪素『異修羅Ⅰ 新魔王戦争』 - 汗牛未充棟

 

 

9.15 サン=テグジュペリ(内藤濯 訳)『星の王子さま岩波書店
星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま―オリジナル版

 

  Fateシリーズのスピンオフ作品である『Fate/requiem』が発売されたのは作年末だが、表紙に描かれている金髪少年サーヴァントについて、正体は「星の王子さま」ではないかと噂されていた。答えはどうあれこれほどメジャーな作品であれば、読者も『星の王子さま』を既読であるという前提で物語が進むだろう。

 というわけで実家の本棚から引っ張り出してきた。未読であっても「象を飲んだ蛇」と「本当に大事なものは目に見えない」的な名言については知っていたが、どうも私はこの名言について誤解していたようだ。「大事なものは目に見えない」。つまり実体のない愛とか夢とか希望とかそういうものが本当に大事なんだ、とかありきたりなメッセージかと思っていたが、最後まで読んでみるとどうやら違うらしい。
 王子さまは自分の星で一本のバラを大切に育てていて、そのバラの美しさを無二のものだと思っていたが、地球に来て同じようなバラが何本も咲いていることを知る。そして知り合ったキツネに教えられる。曰く、キツネにとって王子さまは他に何人もいる男の子の一人に過ぎず、王子さまにとってそのキツネも他にたくさんいるキツネの一匹に過ぎない。しかし二人が仲良くなると、この世に無数にいる男の子(キツネ)から、この世でたった一人の男の子(キツネ)になるというのだ。
 つまり誰かが大事に思うものは客観的に見れば、無数に代替品のあるつまらないものかもしれないが、本人の気持ちや思い入れなど目に見えないものによってそれは「本当に大事な」存在になるというとではないだろうか。
 そんなことを考えながら今度は『Fate/Requiem』を手にとってみる。果たしてこの一冊は私にとっての「本当に大事な」一冊になるだろうか。
 
 

 

9.15 小川哲「魔術師」(『嘘と正典』収録)早川書房 Kindle無料配信版
嘘と正典より「魔術師」無料配信版

嘘と正典より「魔術師」無料配信版

 

  かつて一世を風靡したものの、事業に失敗し家族を捨てたマジシャン竹村理道。その理道の復活ステージに招待された理道の息子である主人公と姉は、そこで前代未聞のマジックを目にする。果たしてこのマジックにトリックはあるのか、それとも本当に奇跡が起きたのか。そしてそれから二十二年後の現在、父と同じくマジシャンになった姉のステージに主人公は招待される。
 ステージの録画を見ている現在の主人公と、二十二年前のステージ上の竹村理道、そしてその竹村理道の半生と時系列が複雑に前後するが、その洗練された語り口でまったく混乱せずに読み進めることができる。そして明らかになる一世一代の大魔術の衝撃的な内容とは。
 マジックに人生をかけた魔術師たちの物語。さっくり読めて面白い、おすすめです。

 

 

9.15 小野不由美丕緒の鳥 十二国記新潮文庫

十二国記シリーズ 再読感想まとめ【part 2】 - 汗牛未充棟

 

 

9.6 小野不由美『東の海神 西の滄海 十二国記講談社X文庫ホワイトハート
9.7 小野不由美『風の万里 黎明の空 十二国記』上下 講談社X文庫ホワイトハート

十二国記シリーズ 再読感想まとめ【part 1】 - 汗牛未充棟

 

  
9.1 サマセット・モーム(金原瑞人 訳)『月と六ペンス』新潮文庫
月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)

 

  文化放送超A&G+で配信中のラジオ番組『鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト』で取り上げられたことをきっかけに手に取ってみた。

 舞台は十九世紀初頭のロンドン、パリ、そしてタヒチに及ぶ。死後評価されたものの、生前はまったく評価されなかったとある芸術家の半生が、主人公である作家の視点で綴られている。
 この芸術家・ストリックランドがかなりの変人で、四十代まで株式仲買人として働き、妻子とともに平凡でありながらも幸せな家庭を築いていたが、あるとき突然仕事も家庭も捨て、単身パリに渡って芸術に身を捧げるようになる。
 描いた絵はただ一人を除いて誰にも評価されなかったが、そもそも他人に絵を見せることもほとんどせず、ただひたすら自らの求める美を表現することに躍起になっていた。しかしこのストイックな態度は高潔さから来るものではなく、ストリックランドの周囲を拒絶し、他者を嘲笑うような振る舞いに人間関係は破壊されていく。
 社会的評価に頓着せず、自らのうちにある美に奉仕するストリックランドの姿勢は、芸術を消費する立場である私にとっては羨ましいとは思えない。しかし、芸術家にとっては彼の姿が理想的に見えるのか気になる作品だった。