汗牛未充棟

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十八年ぶり待望の新作。引き裂かれた主従の再会は叶うのか――小野不由美『白銀の墟 玄の月(一),(二) 十二国記』

 『黄昏の岸 暁の天』の発売から18年。遂に発売された新作だが、まだ焦る必要はない。今作は全4巻構成となっており、三,四巻の発売日は11月9日となっている。長い間待ちわびたファンにご褒美をチラつかせておきながら、さらにあと一ヶ月も焦らすという鬼畜な構成なので、四巻が発売されてから読むのもいいかもしれない。

 

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

 
白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記 (新潮文庫)

 

 

 各国の麒麟の協力により蓬莱から帰還した泰麒は、主であり玉座を追われた驍宗を探すため、隻腕の将軍李斎とともに戴国へと戻る。しかし謀反から6年も経ったいま、驍宗の痕跡はほとんど残っておらず、泰麒たちの目に写るのは、厳しい環境のなかギリギリで生き延びている戴の国民たちであった。

 このままでは今年の冬を越えられないかもしれない。憂える泰麒は、謀反の主犯である阿選が治めているはずの白圭宮に乗り込み、驚きの言葉を告げる。
 一方の李斎は驍宗が姿を消した函養山周辺で捜索を続けるが、状況は一進一退を繰り返すばかりであった。

 

 少しの希望が見えたかと思えば、振り出しに戻ったり、新たな壁が立ちふさがったり……。「冬」という明確なリミットが迫ってくるのを感じながら、一向に状況を打開できないもどかしさは、正当な王を失った戴国の民の生活そのものを表しているように感じた。

 しかしこの苦しい展開が続く感じは、一作目の『月の影 影の海』の陽子を思い出す。果たして戴国にとっての楽俊は訪れるのだろうか。それとも戴国民自身が自らの力で立ち上がるのだろうか。

 

 また十二国記シリーズを読んでいると、これはやはり「十二国記」であって「十二国戦記」ではないのだなと思う。玉座を取り戻す物語として私が思い出すのは『アルスラーン戦記』や『デルフィニア戦記』などだが、これらは集団同士の”戦”を描く物語である。しかし十二国記では、国家間の戦争というのはまずあり得ない。兵をもって他国に侵入すれば、直ちに天命を失うという強い縛りがあるからだ。戦争が起きるとすればそれは内戦ということになるが、このシリーズでは集団戦ではなく、少数の強者が戦って決着がつくことが多いように思う。例えば『東の海神 西の滄海』では王師と州師があわや激突というところまでいったが、延王が単身で州城に乗り込み解決した。

 十二国記シリーズが描こうとしているのは、国の興亡などではなく、あくまでそこで暮らす人々の様々な営みなのだろう。だからこそ本書『白銀の墟 玄の月』でも泰麒や李斎が出会う人々の様子が細かに描かれているのだと思う。