汗牛未充棟

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三田誠『ロード・エルメロイⅡ世の冒険 彷徨海の魔人』――日本に降り立ったⅡ世を迎えたのは”両儀”幹也!?神の名を問う「冒険」シリーズ第2弾!

 かつて英霊イスカンダルとともに第四次聖杯戦争を戦い抜いた青年、ウェイバー・ベルベット。今ではエルメロイⅡ世を名乗り、西洋魔術の総本山である時計塔で、十二人のロードの一人として教鞭を振るっている。
 そんな彼を主人公に据えた、"Fate"のスピンオフ作品が「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」(全10巻)であり、現在はその続編である「ロード・エルメロイⅡ世の冒険」シリーズの刊行が続いている。*1
 
 前回、第1巻の最後にシンガポールの地を発ったエルメロイ一行が向かったのは日本。そこで彼らを待ち受けていたのは"両儀幹也"という男からの依頼、そして"彷徨海"の青年との出会いだった。
 
 以下、『ロード・エルメロイⅡ世の冒険1 神を喰らった男』の一部ネタバレを含みます。
 シンガポールでエルメロイⅡ世が出会ったエルゴという青年は、記憶喪失なのだという。しかしその実態は、三柱もの神をその身に取り込んだことによる記憶飽和だった。取り込んだ神々に人格まで壊される前に、神を還さなければならない。その手段のヒントになるかもしれないと青崎橙子に引き合わされたのが両儀幹也だった。
 そんな両儀幹也からエルメロイⅡ世はとある依頼を受ける。それは夜劫アキラという少女が誘拐されたので、助け出してほしいというものだった。
 日本における魔術師の家系である夜劫を訪れたエルメロイⅡ世とグレイは、夜劫アキラを誘拐したのが彷徨海に連なる人物であることを知る。彷徨海とは、時計塔、アトラス院とともに魔術協会を形作る組織。神代の魔術を扱っているというが、その実態は長らく語られてこなかった。
 そんななか別行動をしていたエルゴと遠坂凛は、アキラと彼女を誘拐した張本人、白若瓏(ばい るおろん)に遭遇する。記憶喪失前のエルゴを知っているらしい口振りの若王龍の背には、エルゴの幻手によく似た幻翼が生えていたのだった。
 
 実は「事件簿」から「冒険」になって、Fateシリーズではお馴染みの要素が追加された。その要素とは「真名当て」である。魔術師が英霊を召喚して戦う聖杯戦争において、英霊の正体が割れるということは、その英霊の逸話に基づく弱点も明らかになるということ。そのため、聖杯戦争を描いた物語では、敵対する英霊の正体を推理することが一つの醍醐味となる。
 「冒険」シリーズには今のところ英霊は登場していないが、エルゴが喰らってしまった三柱の神を還すためには、まずは神の正体を知らないことには始まらない。また、幻手と似た幻翼を操る若瓏も何らかの神を取り込んでいる可能性が高い。このように神の名を問う真名当てが、「冒険」シリーズの一つの柱となっている。
 
 また、こちらは「事件簿」から続くものだが、様々なTYPE-MOON関連作品からのゲストの活躍も見所の一つだ。
 『Fate/stay night』からはメインヒロイン一人である遠坂凛が、1巻から引き続いてエルメロイⅡ世に同行している。そもそもシンガポールの海を漂っていたエルゴを見つけたのが、そこで海賊行為を行っていた遠坂凛なのだった。今回凛はエルメロイⅡ世の指導を受け、とあるパワーアップを果たすことになるが、今まであまりスポットの当たらなかった凛の設定を活かすものであり、そのインチキ具合に注目してほしい。
 そしてもう一人、今作の主要人物であり、あらすじの公開と同時にファンを騒がせた人物こそ"両儀幹也"だ。両儀幹也とはもちろん、両儀式と並ぶ『空の境界』主人公、黒桐幹也のことである。両儀家に婿入りして改姓してからの登場は、おそらく初めてなのでないだろうか。初め両儀幹也はエルメロイ一行と夜劫の仲介役として登場するが、もちろんそれだけでは終わらない。
 彼は基本的には一般人であるため戦闘シーンでの活躍こそないものの、その特異性によって、事件の根幹に関わっていたことが終盤に明かされる。まだ事件簿や冒険シリーズを読んでいない『空の境界』の読者にも、これを機にぜひ読んでほしい。

*1:ちなみに時系列でいうと、第五次聖杯戦争(=『Fate/stay night』)の前が「事件簿」シリーズ、後が「冒険」シリーズとなっている。