汗牛未充棟

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小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』――大切な人を取り戻せ。百合もSFも大増量の第2巻!

 

 人類が宇宙に進出してから数千年。辺境宇宙のガス惑星、FBB(ファット・ビーチ・ボール)の軌道上に移住した人々は周回者(サークス)を名乗り、昏魚(ベッシュ)と呼ばれる鉱物資源を漁獲して暮らしていた。昏魚とはFBBの大気を泳ぎ回る魚のような何かのこと。そんな周回者の重要産業である昏魚の漁は、船の操縦をツイスタと呼ばれる男性が、状況に応じた船の変型をデコンパと呼ばれる女性が、夫婦となって行うと伝統的に決められていた。

 そういった因習にまみれた社会の中で、女性二人で漁を行うテラとダイオードの活躍を描く本シリーズ。前回、ダイオードを連れ去ろうとするゲンド―氏の追手から逃げようとして、ガス惑星FBBの深層に墜落してしまったテラとダイオードの二人。奇跡的に生還した前作ラストの直後から第2巻の物語は始まる。

 

 ジャコボール・トレイズ(JT)氏の船に救助された二人は、JT氏の氏族船に送り届けられるが、その場でダイオードはゲンド―氏の追手によって連れ去られ、テラもエンデヴァ氏の氏族船に送還されてしまう。ダイオードを取り戻すためにゲンド―の氏族船に潜入するテラだったが、なぜかニシキゴイ型の昏魚の漁で対決することになり、さらには周回者全体を巻き込む陰謀に巻き込まれてしまうのだった。

 

 さて、ダイオードを奪還するといっても、基本的に周回者は氏族ごとそれぞれのコロニーで暮らしているため、テラはエンデヴァの氏族船を出ることすらままならない。そもそも男女の恋愛しか想定されていない周回者の社会において、テラにとってダイオードがどういう存在なのかを理解してくれる人がほとんど存在しないのだ。

 そんなテラに対し、とある意外な人物が救いの手を差し伸べる。それは、エンデヴァ氏族長ジーオンの妻であるポヒ夫人だった。ジーオンは、前巻で女性同士の漁を認めず、漁獲対決によってテラたちの船を取り上げた人物で、保守的な周回者社会を代表するような存在だ。その妻であるポヒもまた、伝統ある家系の出身であり、今では族長の妻として氏族が継承してきた論理の中で生きている。

 ダイオードと二人、未知の世界へ飛び出そうとしているテラとは、同じ女性としても、エンデヴァ氏としても、相反する生き方をしているようにみえる。しかし二人にはもう一つ大きな共通点がある。それは二人ともデコンパであるということ。女性として、エンデヴァ氏としての共感はできなくても、デコンパとしてなら共感できる。そうしてポヒ夫人はテラに手を差し伸べるのだった。

 

 ここまでは冒頭の一幕でしかないが、実はこのあとも「デコンパ」という存在が物語のカギを握ることとなる。連れ去られたダイオードの前に現れた、新キャラクターにして、ダイオードの元ルームメイトにして、元○○の暝華(メイカ)もまた、デコンパなのだ。どうやら優秀なデコンパを集めているらしいゲンド―氏の陰謀が、尻尾をのぞかせる。

 

 また、そもそも百合SFアンソロジーから生まれた本作だが、2巻では百合成分もパワーアップされている。

 前回、お互いの気持ちを確かめあったテラとダイオードの二人だが、それで何もかもが通じ合うというわけでは、もちろんない。相手の心にどこまで踏み込んでいいのか、もしくは相手の体にどこまで触れていいのか。ときに不安になりながらも、二人にとっての適切な距離感を探っていく過程が丁寧に書かれており、読者としては自然と口角が上がっていくのを止めることができない。

 そうして間合いを探っているさなかに、暝華によってさらにかき乱される二人の関係が、騒動の果てにどう決着するかも注目だ。