汗牛未充棟

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後半戦突入!――森博嗣「Gシリーズ」 part 3

 Gシリーズは7作目から後半戦へと突入。7~9作目のギリシャ文字が「α」「β」「γ」と始めの3文字で、10~12作目が「χ」「ψ」「ω」と終わりの3文字となっているのは偶然ではないだろう。
 
 前半では事件が起きる間隔はとても短いものだったが、後半からは「α」と「β」の間に3年、「β」と「γ」の間にも1年と、事件ごとの間隔が広くなっている。

 そして後半からは事件や謎解きの性質も少し変わったような気がする。Gシリーズはミステリ作品ではあるものの、当初からトリックなどハウダニットの要素は抑えられていた。それでも「φ」や「τ」では「密室の謎」が登場したが、「α」からはそれもほとんどない。
 代わって顕れるのが「ワイダニット」である。なぜ目薬の中身を劇物に入れ換えたのか。なぜ遺体をラッピングし、棺に入れたのか。なぜキウイが送られたのか。

 犯人の逮捕に必要なのは科学的な証拠であって、机上の推理ではないと、作中でも登場人物がしばしば語っている。そもそも大掛かりなトリックを仕掛ければ、科学的な証拠が残ってしまう可能性も大きくなるだろう。
 そうではなく、例えば死体をラッピングせざるを得ない理由があって、それが何なのか事件に巻き込まれたキャラクタたちが語り合う。彼らは警察ではないので証拠を集めるわけでもなく、ただ推理によって導かれる解答を得るだけで、それが真実なのか確かめる術もなければ必要もない。
 「本格」と呼ばれるものとは別種の、地に足のついたミステリ作品と言えるだろうか。

 

 

  全国各地で目薬の中身が劇物と入れ替えられる事件が発生。目薬のパッケージにはギリシャ文字のαが書かれていた。製薬会社の依頼を受け、探偵・赤柳は調査を開始する。
 一方で学部3年に進級した加部谷の周囲に変化が訪れる。憧れの西之園は助教授として東京のW大学に赴任し、同級の海月もとある決断を下した模様。海月に気持ちを伝える加部谷だったが果たして…。懐かしいあの人の名前も登場し、物語が加速していく。

 

 

 『目薬α』から3年後、三重県庁に就職した加部谷は、テレビ局に就職した雨宮、M大学助教授となった山吹とともに「美乃里」と呼ばれる施設でキャンプをしていた。美乃里は自然公園やキャンプ地の他に芸術家たちが暮らすエリアがあり、実は宗教団体ではないかと噂されていた。
 美乃里の調査にやってきた水野涼子は棺に納められ、全身ラッピングされた死体を発見する。さらに別の家の棺には”ある人物”によく似た人形が納められおり…。
 シリーズ中もっとも濃く”彼女”の影を感じる1冊。

 

 

  建築学会の年次大会が開催される日本科学大学。その大会本部に手榴弾に見立てたキウイが届けられた。しかもそのキウイには「γ」の文字が刻まれていた。
 その夜、建築学部の学長が何者かに襲撃される。犯人は片手に拳銃を持ち、もう一方の手にキウイを握っていた。
 果たしてキウイの意味は?「γ」は一連の事件との関連を意味するのか。建築学会に参加していた加部谷たちは真相に迫ることができるのか。