常日頃からメイド喫茶を愛好し、時にはメイド喫茶で執筆をすることもあるらしい作家・柴田勝家。そんな氏が遂にメイド喫茶を舞台にしたミステリー小説を刊行した。
推したり推されたりの関係が複雑に絡み合う濃いめな人間関係を、クールなベテランメイド・黒苺フガシが解きほぐす。
連作短編集となっている本作の第1話「すていほぉ〜む殺人事件」は『ステイホームの密室殺人2 コロナ時代のミステリー小説アンソロジー』(2020, 星海社FICTIONS)が初出。これはその名の通りコロナ禍の日常を舞台にしたミステリーのアンソロジーで、本作もメイド喫茶に通えなくなった主人公が、配信を見ているという場面から物語が始まる。
例にもれずメイド喫茶もコロナ禍の影響で営業休止に追い込まれ、主人公の推しのいるメイド喫茶〈はぴぶる〉は、再開までの繋ぎとしてメイドによる配信を始めたの。
その配信の最中、時間と場所を指定して直接話したいという不審な書き込みがされる。いわゆる「繋がり厨」のものと思われる書き込みで、メイドにも相手にされていなかったようだが、主人公の"ボク"はそんな繋がり厨の正体を確かめるため、指定された場所で張り込むのだった。
そしてそこに現れたのが、メイド喫茶探偵・黒苺フガシである。彼女は自分もメイドであり近く〈はぴぶる〉で働く予定だという。それではなぜ、同僚となるメイドに無理に会おうとしたのか。
やがて主人公は〈はぴぶる〉で起きてしまった密室殺人事件に、成り行きで巻き込まれていく。
メイド喫茶専門の探偵を自称する黒苺フガシが関わる事件は、当然メイド喫茶やコンセプトカフェといった店舗が舞台になる。
そういった世界観をより理解するためにも、補助線となるようなとある連載記事を紹介したい。それが集英社のウェブメディア「よみタイ」に掲載されている「柴田勝家が戦国メイドカフェで征夷大将軍になる」だ。
ここでは、柴田勝家がメイド喫茶に通うようになったきっかけから始まり、行きつけとなった戦国メイドカフェでの、様々なメイドさんや常連客とのエピソードが綴られている。
本作やこの連載を読むと、界隈の人間関係の近さが感じられる。これがアイドルとファンの関係ならば、舞台と客席や、スクリーンによって隔てられ、一定の距離が保たれるだろう。
しかしメイド喫茶では店舗内という狭い空間で直接交流することができる。接客するメイドと客の関係はもちろん、客同士の関係すらもより密接なものになるだろう。
こうした人間関係の近さが魅力となる一方で、時にはトラブルも引き起こしてしまうのは想像に難くない。
そんなとき、メイドとして内部に入り込み、トラブルを解決するのがメイド喫茶探偵・黒苺フガシなのだ。
ところで本作の語り手である"ボク"は、探偵の助手役も務める。しかしいくら助手とはいえ、お客である"ボク"がメイドの黒苺フガシに帯同することに、問題はないのだろうか。そもそも二人の出会いのきっかけからして、"ボク"がメイドと私的に繋がろうとした輩の正体を暴こうとしたことが発端である。
しかし、そこは安心。とある妙手によって解決されているのだが、ぜひそれは実際に読んで確かめてほしい。