S&Mシリーズ最終章!巨大テーマパークを舞台に”天才”が再び姿を現す――森博嗣『有限と微小のパン』
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/11/15
- メディア: 文庫
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しばらく積んでいた森博嗣のGシリーズを読みだす前に、真賀田四季の足跡を改めて読み直した方がいいかもしれない。そう思って『すべてがFになる』に続いて数年ぶりに本書を手に取った。本当なら出版順に森博嗣作品を読み直すのが一番良いのだろうが、さすがにそれほどの覚悟は決められなかった。
〈あらすじ〉
西之園萌絵と彼女の友人である牧野洋子、反町愛は、犀川ゼミのゼミ旅行の目的地である長崎のテーマパークに前乗りしていた。それというのも、テーマパークを運営するソフトメーカの社長が萌絵の許嫁であり、その彼に招待されたのである。しかし、ソフトメーカ・ナノクラフトの研究所に案内された萌絵はそこで真賀田四季に遭遇し、さらに教会内で見つかった死体が浮きあがって、ステンドグラスを突き破ってどこかに消えるという奇妙な事件に巻き込まれる。同日犀川も真賀田四季からのメッセージを受け取り長崎へと急行する。テーマパークを舞台に虚飾で彩られた事件の幕が上がる……。
〈”天才”〉
文庫にして900頁近い物量があり、その中で不可解な事件の謎はもちろん、許嫁という存在が現れた犀川と萌絵の関係値の変化や、真賀田四季との対決など見どころが詰まっている。その中でキーワードとなるのはやはり「天才」だろうか。作中ではナノクラフト社長の塙理生哉によって、天才について次のように語られている。
「人格だけじゃない、すべてに概念、価値観が混ざっていないのです。善と悪、正と偽、明と暗。人は普通、これらの両極の概念の狭間にあって、自分の位置を探そうとします。自分の居場所は一つだと信じ、中庸を求め、妥協する。けれど、彼ら天才はそれをしない。両極に同時に存在することが可能だからです」
〈以下、ネタバレ感想〉
塙理生哉には許嫁であり、株主である萌絵の気を引くという理由や、実験のためという理由があっただろう。新庄久美子にも愛憎や損得勘定に基づく理由があったのであろう。ここまでは凡人の想像が及ぶ範囲とも言える。
では真賀田四季の動機はなんだったのか。犀川は作中で「遊んでいる」と評し、また「コンピュータも、ほかの人間の頭脳も、さらに偉大なる頭脳の、有限かつ微小な細胞に過ぎない」「自分の頭脳を拡大し増強する。それ以外に、生きている目的はないだろうね」と述べている。