汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

映画『JUNK HEAD』――【レビュー】ストップモーションで創られた驚異の地底世界冒険SF

 3月末に公開された堀貴秀監督作品『JUNK HEAD』。先日地元の劇場でも公開されたので見てきました。
 ほとんど独力で制作された長編のストップモーションアニメというだけでも驚きですが、強烈なビジュアルイメージを備えたSF作品でもあり、是非多くの人に見てほしい傑作です。

 


www.youtube.com

 

 物語は、パワードスーツのような機構をまとった主人公パートンが、底の見えない深い深い縦穴に投入されるところから始まります。主人公の目的は地下深くに生息する「マリガン」という生き物を調査すること。

 マリガンとはかつての人類が地下開発の労働力として生み出した人工生命体のことで、1600年前のマリガンの反乱以来、人類とマリガンは地上と地下に別れて暮らし、それぞれ独自の進化を遂げていました。

 この時代の人類はその技術力によって寿命を克服しているのですが、その代償に生殖能力を失ってしまいます。そんななか新たなウィルスによって絶滅の危機に瀕した人類は、失った生殖能力の可能性をマリガンに見いだし、マリガンの調査に主人公を送り込んだのでした。

 

 地下深くへ降下し続けるパートンですが、途中ロケットランチャーによる砲撃を受け、爆発四散してしまいます。躯体が壊れて頭だけになった、つまり「JUNK HEAD」になってしまったパートンは*1、マリガンに拾われてボディを与えられます。

 マリガンにも様々な種類があり、知性を備えた人型のマリガンもいれば、野生化した獣型の危険なマリガンもいます。パートンはそんなマリガンと交流したり、ときには一緒に戦いながら地下世界を冒険していきます。

 様々な個性を持ったマリガンやその共同体との出会いや、狂暴だったり狡猾だったりする野生マリガンとの戦いは、例えば『ガリバー旅行記』や、あるいは『アド・バード』のような冒険SFを思わせます。

 

 マリガンたちの生態は劇中で徐々に明らかにされていきますが、劇中で説明される以上の膨大な設定があり、その一部は公式サイトで公開されています。本記事に書かれたあらすじや世界観の説明も公式サイトの解説を参考にしました。

 またそれらの設定だけでなく、ときには可愛らしく、ときには心底気持ち悪いキャラクターたちの造形と、彼らが見せるアクションも非常に魅力的です。特に3バカと呼ばれるマリガンたちが愛くるしく、かつ格好良いアクションを見せてくれるのですが、それらがストップモーションで撮られているというのが、何よりの驚異です。

 

f:id:miniwiz07:20210505213706p:plain

https://gaga.ne.jp/junkhead/#character

 

 この作品に費やされたコストは、広く称賛や敬意を受けるべきものであると同時に、まだ三部作の第一部であるというこの物語を完結させるためにも、多くの人に見てほしい傑作でした。
 

*1:この時代の人類は微弱な電気刺激さえあれば、頭部のみで自我を保つことができるようになっています。