汗牛未充棟

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『文学賞メッタ斬り!』大森望,豊﨑由美――20年前のSF界隈ってどんな感じ?

 長野県は小布施町を観光でふらついていたときに、「じゃらん*1」という古本屋兼喫茶店で見つけた一冊。2004年の出版で、その当時の様々なジャンルの文学賞について、両氏がざっくばらんに対談をした様子が収録されています。

 

文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

 

  ※私が手に入れたのは単行本ですが、のちに筑摩書房から文庫化されたようです。リンク先はちくま文庫の電子版。


 ちょうど大森望,伴名練編集の『2010年代SF傑作選』を読み終えた頃だったので、大森望が当時のSF界隈についてどう語っているのか気になって、思わず手に取りました。

 『2010年代SF傑作選1』のあとがきで大森望は、ゼロ年代末に日本SF新人賞と小松左京賞がともに休止したが、10年代はそれと入れ替わるようにして、創元SF短編賞とハヤカワSFコンテストが創設され、さらにはWeb小説などから新たな才能が次々と登場し活躍していると総括しています。ゼロ年代末にSFの文学賞が入れ替わったあたりが転換点となって、SF小説界隈は10年代にさらなる飛躍を遂げたといえるでしょうか。

 ここで本書のSFジャンルの章を見てみると、まず章題が「ようやく夜が明けてきた?SFの賞事情」とあります。ずっとSFの新人賞がなかった暗黒の90年代が終わり、99年に小松左京賞と日本SF新人賞の二つの新人賞が生まれて、どんどんSF作家が出てきたといったことが語られています。前述のように、10年代SF傑作選ではこの二つの賞の終わりに触れられているので、この本が出版されたころから2サイクルぐらいの隔たりを感じます。

 ちなみに日本SF新人賞の第一回の受賞作は三雲岳斗『M.G.H.楽園の鏡像』で、本格SFの小松左京賞に比べてライトノベル寄りの賞だと言われています。三雲岳斗といえば『ストライク・ザ・ブラッド』の作者ではないですか。対談の中で新人として紹介される作家には、現在まで活躍している人も多く、「この人は後々すごい売れるんだよな」とか未来人の視点で楽しんだり、「この作者のデビューはここだったのか」と驚いたりと、様々な発見がありました。

 他にも「西尾維新がどうしてこんなにウケてるのかわからない」といった話や、「ライトノベルを読んで育ってきた大人に向けた(のかもしれない)カドカワのNext賞」など気になった部分の拾い読みですが、たいへん楽しく読めました。

 

 ……Next賞、うまくいかなかったようですが、どの時代も同じような試みがされているのですね。(ノベルゼロの方を見ながら。)

*1:見るからに民家のダイニングといった空間でコーヒーをいただきました。周囲にはうず高く本が積まれいて素敵な空間でした。Twitter→ https://twitter.com/iGVEUUXvqDwZjpt