汗牛未充棟

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大学生・阿良々木暦 第3弾――西尾維新『余物語』

 

余物語 (講談社BOX)

余物語 (講談社BOX)

 

 

■イントロ
 <物語>シリーズ25作目にして、阿良々木暦の大学生活を描くモンスターシーズンの第3弾。今回のヒロインは死体の付喪神斧乃木余接。現在、月火所有の人形として阿良々木家に居候しており、また撫子との絡みもあることから最近特に登場頻度の高い彼女である。

 収録作品2作のあらすじは次の通り。


□よつぎバディ
 老倉育によって「児童虐待の専門家」と噂される阿良々木暦は、大学の夏休み直前にスイスドイツ語の講義を受け持つ准教授・家住羽衣に相談を持ちかけられる。その相談内容とは「自分の娘を虐待してしまいそうだから、どうにかしてほしい」というものだった。

 更に話を聴くと、どうやら家住准教授はテストの採点期間中、3日間も自宅で娘を放置しているという。しかも、檻に入れたままで。

 依頼を受け、家住准教授のマンションに確認に向かった暦と余接が目にしたものとは。


□よつぎシャドウ
 絶賛不登校中の千石撫子。高校にも進学しないつもりなら、家を出て自活しなさいと親に言われた撫子は、住み処を手に入れるため臥煙伊豆湖の依頼を受ける。住人が立て続けに首を吊ったというマンションの一室に隠された怪異とはーー。

 前巻『宵物語』収録「まよいスネイク」同様に、臥煙さんの依頼を受けて奮闘する撫子と、それをサポートする余接の物語。モンスターシーズンは、暦が主人公の長編と撫子が主人公の短編が1本ずつという構成になるようだ。


児童虐待の専門家
 前巻『宵物語』に登場した通称紅孔雀ちゃんも両親とのトラブルを抱えていたが、ここに来て「児童虐待」というテーマが明確に示されるようになった。思えば『化物語』の時からヒロインたちは家庭内に問題があり、それが怪異が発生する原因となることも多かった。”親”という存在による不当な支配や、親との対決といった要素が〈物語〉シリーズ、ひいては西尾維新作品に通底するテーマなのかもしれない。そしてそれこそが、西尾作品が思春期の中高生に支持される一因でもあるのだろう。

 話は戻って『余物語』である。「児童虐待」というキーワードがあからさまに示されている以上、それがそのまま描かれるわけがない。一ひねりも二ひねりも捻じれた展開が暦と余接を待ち受けるのだった。


■日傘星雨
 シリーズ9作目の『花物語』に神原の同級生として登場して以降、音沙汰のなかった彼女だが、大学生編に入ってからやたらと登場頻度を上げてきた。(ちなみにアニメのCVは日笠陽子。名前キャスティングとしか思えない。)そんな彼女だが、名前の読み方に関して「せいう」と「ほしあめ」という表記のブレがあった。いったいどちらが正しいのかなと思っていたら、この『余物語』でまさかの答えが示された。まさかそんな設定をぶち込むとは…w