汗牛未充棟

読んだ本の感想などを中心に投稿します。Amazonリンクはアフィリエイトの設定がされています。ご承知おきください。

百合エンタメの最前線!!ーー宮澤伊織『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

 

季節は秋。DS研でコトリバコの呪いを辛くも退けた空魚と鳥子は裏世界探検の日々へと復帰する。お弁当と農機を持ち込んで異界の草原をのんびり走ったり、大学の後輩が持ち込んだ悩み事の解決に奔走したり、認知科学者・小桜の屋敷に入り浸ったり――そこには常に、怪異たちと閏間冴月の影もあって――そしてふたりを襲う、最大の脅威〈ウルミルナ〉とは? 表に出せない感情同士が激突する女子たちのサバイバル、第3巻!

 

◼イントロ


 近年、百合とSFが急接近しているらしい。ここ数年に渡って、百合ジャンルは活気づいている(主観)。その中でもSFと絡めた作品が勢いを増しているようなのだ。例えば、本作『裏世界ピクニック』とか去年最新刊が出た月村了衛『機龍警察』シリーズとか…。
 正直不勉強で確かなことは何も言えないのだが、SFマガジンの2019年2月号は百合特集ということなので、きっとそうなのだろう。
 そんな感じで、これを読めば百合の最前線とSFの最前線が分かるかもしれない『裏世界ピクニック3』は「ファイル9 ヤマノケハイ」、「ファイル10 サンヌキさんとカラテカさん」、「ファイル11 ささやきボイスは自己責任」の3本立てとなっている。

 


マッピング


 前巻で裏世界の移動用に農機を買った空魚と鳥子は、裏世界の地図を着々と作り上げていく。次第に顕になる裏世界の姿だが、空魚と鳥子にまつわる謎はまだまだ明らかにはならない。お互いに相手に言えない秘密があるようだし、相手には見せない姿もありそうだ。今回その片鱗を見せた、鳥子に会うより前の空魚のメンタリティには驚かされた。
 また、鳥子に言えないことといえば、「ヤマノケハイ」のラストシーンがとても良かった。これこそ小説ならではの演出であり、恐怖を掻き立てられる。

 


◼"説明できない"ということ


 「ファイル11 ささやきボイスは自己責任」では、明らかにされなかった謎がいくつか残ったように思う。例えば突如検索結果に引っ掛かり、空魚が見た途端に消えた<ウルミルナ>の動画。誰かが意図したのか、どのように行ったのか、どんな意味があったのか、ハッキリとした説明はなかったように思う。もしかしたら次回にフォローが入るのかもしれないが、しかしこの作品において"説明できない"ことは"説明できない"ままであることがふさわしいように思う。
 そもそも恐怖という感情は、理解できないということや予測できないということに起因しているのではないか。「幽霊の正体、見たり枯れ尾花」というが、あえて枯れ尾花であることを看破しないことこそ、恐怖を味わうためにふさわしい振る舞いであるように感じる。