汗牛未充棟

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真夏のビーチに百合の花――宮澤伊織『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』

 

 季節は夏。この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界で、女子大生の紙越空魚と仁科鳥子は互いの仲を深めながらも探検を続けていく。「きさらぎ駅」に迷い込んだ米軍の救出作戦、沖縄リゾートの裏側にある果ての浜辺の夜、猫の忍者に狙われるカラテ使いの後輩女子――そして、裏世界で姿を消した鳥子の大切な人、閏間冴月の謎。未知の怪異とこじれた人間模様が交錯する、大好評のネットロア×異世界探検サバイバル、第2弾!


◼イントロ

 宮澤伊織による百合ホラーSF第2作はサブタイトルからして素晴らしい。「果て」で「浜辺」で「リゾート」で「ナイト」とは。毎日決まった時間に出社して、面白くもない仕事をこなすサラリーマンには憧れの単語がズラリと並んでいる。
 とにもかくにも収録内容は、1巻で遭遇した米兵を助けに向かい、素敵な一夜を過ごす(?)沖縄編「ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦」「ファイル6 果ての浜辺のリゾートナイト」のほかに、空手家後輩少女になつかれる「ファイル7 猫の忍者に襲われる」、閏間冴月の手がかりを求めてDS研究所を訪れる「ファイル8 箱の中の小鳥」の全4編となっている。

 

◼空魚と鳥子

 シリーズ2巻目となり、新しい人間関係も築かれ、空魚と鳥子の仲も深まってきた。だからこそ二人のすれ違いも明らかになってきたようだ。空魚は初対面の時に鳥子に言われた「 知ってる?共犯者って、この世で最も親密な関係なんだって 」という言葉がとても大切なものとなっており、自分と鳥子の二人だけの世界を求める。しかし鳥子は裏世界に消えた閏間冴月の影を追い続け、空魚には自分のように一人の人間にとらわれて欲しくないと感じる。そのため鳥子は空魚の人間関係を広げようとするし、空魚はそれを拒否する。

 空魚の前に現れた空手家後輩少女を巡って二人はすれ違うが、そんなことはお構いなしにカラテカは空魚と絡もうとするし、爆弾発言で鳥子を惑わしたりするのであった…。

 

◼小説とホラー演出

 「ファイル8 箱の中の小鳥」は映像でも漫画でもできない、小説ならではのホラー演出が炸裂したエピソードだった。物語世界の文脈から切り離された文字の羅列は、だからこそ読者に直接のインパクトを与えるのだろうか。個人的にお気に入りの演出であった。